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公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

新しい靴

靴の内側が剥がれてきたから、さすがに捨てて、新しい靴を買った。
とは言っても、そんなに目新しいデザインじゃない。黒いパンプス。

面白みのないチョイスだけど、無難な選択でいいのだ。
だって毎日履くものなんだもの。奇抜なデザインだと、合わせる服に悩んじゃうよ。

—————-でも時々、童話「赤い靴」の女の子を思い出す。

確か赤い靴に固執していた女の子のお話だ。厳粛な場所にまで赤い靴を履いていたから、天罰として踊り続けなければならない呪いをかけられてしまう女の子。両足を切断してもらうことによってその呪いからは解放されたけれど、天から許されるまでそこから先、まだまだ長い時間を必要とした女の子。

そこまでひとつの靴を、赤い靴を好きになるってどういう感じなんだろ?

別に、赤い靴が欲しいわけじゃない。世の中に素敵な靴はたくさんあるけれど、わたしはお手軽価格の靴でいいもの。
無難な靴でいい。無理なんて、気負うこともしないで、ごく自然にそう考えてる。

でも、と思うのだ。
でも、例えばローンを組んで新しい靴を購入するってどんな感じ?

素敵な靴で人生変わるかしら?

そう思うと次こそ、丁寧に新しい靴を選んでみたいという気持ちにもなる。高価でもこまめにお手入れして長持ちさせて。そうして迎える生活はどんな風に変わるんだろう? ちょっと上質、ちょっと窮屈、でも悪くない生活にも感じられるのだ。

想像する。思ってしまう。
でも今、わたしの足を守ってくれるのは、無難な黒のパンプス。

これでいいのか?
これでいいのだ?

わからない。

そんなわたしは、また新しい靴を買うときに、きっと思い悩むんだろう。

024・新しい靴▼
(現代もの 靴を購入する女性)

難しいお題でした。さすが365のお題だよ、と思いつつ、必死になって文章を紡いでみたり。世の中にはいろんな価値観があって、自分だけの価値観だと行き詰まりを覚えちゃう時がある。他の価値観に寄り添ってみようかと思いつつ、結果、自分の価値観に沿った選択をしてしまう。それでいいのか、それは悪いのか。どちらでもいい。そんな感じの小話となりました。

2019/08/25

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