ふと目を伏せたのち、アレクセイは改めて目の前のパストゥス王を見つめた。

 美貌と云うわけではないが、精彩に満ちた表情が印象的な人物である。加えて、型破りと表現したい人物だ。率直で不用心。会話運びに対してそう感じた。
 いま、アレクセイに告げた内容は、本来ならばあからさまにしない類の話だろう。それでもあえて口にした理由は、アレクセイを試すためだろうか。考えながら紅茶を飲んでいると、「さて」と女王は楽しげな口調で切り出してきた。

「それでアレクセイ王子は我々になにを望んでいる? ただ、パストゥス王宮に乗り込んで、自らの存在を宣伝したかっただけではないだろう」
(まさに、それだけが目的だ、と云ったら驚くんだろうな)

 断定口調で告げられた内容に、アレクセイはおかしさをこらえていた。これだから王族連中は、とも感じていた。ややこしくてしかたない。傭兵たちのほうがずっとシンプルだ。

 だが、なるほど、と同時に考えていた。これが王族なのだ。ひとつの行動で、複数の利益をもたらすよう、考える。このやり方はまさしく、亡き親友のやり方だ。まだまだ至らぬ点が多かったようだ、と反省しながら、すぐにアレクセイは思考を切り換えた。

「では、現在の鎖国政策を解いたのち、再びの国交をお願いします」
「ほう?」

 パストゥス女王は瞳をきらめかせたが、アレクセイとしてはありふれた要求のつもりだ。

 ルークス王国の解放にあたって、いま以上の、『灰虎』以外の戦力は必要ない。ただひとつ、ルークス王国への侵入方法を望んでいるが、おそらくルークス王国との国境に現れたキーラが見つけ出しているだろう。

 なにより、いま、王族のやり方が複数の利益をむさぼるためのものだと理解したのだ。下手な助力など求めたくない。ルークス王国を解放したのち、『灰虎』の仲間たちと別れたあと、アレクセイに支払えぬ対価を要求されたら厄介だからだ。

 そのあたりの警戒を読み取ったのか、くつくつとパストゥス女王が笑う。

「頼もしいな。だが、王子が鎖国政策を解くにあたって、大きな障害がある」

 笑いながら女王が告げた。

 なにげない口調だったが、アレクセイの感覚が、警戒を促した。表には出さない。あくまでも微笑みを浮かべたまま、すらりと立ち上がった女王の動きを見守る。すたすたと執務机に引き返して、女王は一枚の羊皮紙を取り出した。

「本日、ルークス王国から届けられた書簡だ。どうやら各国に届けられたらしいと我が国の宰相は付け加えてきたがな。読み上げよう。――――我、ルークス王国国王たるイーゴリ・レオーノヴィチ・スヴェートはここに宣する。この度、我が甥にして第一王位継承者たるアレクセイ・パーヴロヴィチ・スヴェートが不慮の事故によりその生涯を終えた。であるからこそ、我はルークス王国統治権を放棄し、民に王国を委ねんとす――――」

 それは、いま、パストゥス王宮にいるアレクセイが偽物だと告げる文書だった。