だが犯人探しにもっともふさわしい人物は、アレクセイ自身だろう。

 なんといっても王宮に滞在している。貴族たちの情報を入手しやすい場所にいるのだし、日々、王女たちと身近に接している。つまり、普通の方法で捜索するにも、囮として捜索するにも、どちらにも適合する立ち位置にいるのだ。活用しない手はないだろう。

(だが、後者は遠慮したいな)

 なぜなら相手を挑発するため、王女たちと親しくならなければならない。しかし傭兵として育ったアレクセイには、自分より年下の少女たちを喜ばせる方法など思いつかない。

 そもそも、なぜ王女たちが自分を気に入ったのか、理由もわからないのだ。そんな自分を振り返れば、王女と親交を深めて囮役を務めると云う役柄は、不適格だと素直に感じる。

 けれど、現状を率直に見つめたら、意図せず挑発している事実に気づいた。

「アレクセイさま? どうなさいましたの?」

 小首を傾げ、ロズリーヌ王女が訊ねる。その隣ではマリアンヌ王女が、妹王女が自ら用意した菓子を、ふてくされた様子でつまんでいた。今朝も鍛錬の相手を断ったから機嫌が悪いのだ。いい加減に諦めてくれ。本音を隠して、アレクセイは穏やかに微笑む。

「失礼。少しぼんやりとしていたようですね。王女たちとの茶会は居心地が良いものですから、つい」
「まあ。そうおっしゃっていただけたら、とてもうれしいですわ。ただでさえお忙しいアレクセイさまに、ご負担をおかけしているのではないかとひやひやしていたんですの」

 まあ、たしかに王女二人との茶会は、窮屈である。

 上品ぶって紅茶を飲まなければならないし、会話にも気が抜けないし、侍女たちがずらりと並んで控えている。この状況を快適だとみなす感覚は、アレクセイにはない。

 あるいはあの男、シャルルと名乗った婚約者候補の男ならば、劇に出演する感覚でうまくやり過ごすのかもしれないが、同じ芸当をアレクセイに求められても困るのである。

 ただ、年下の少女相手に、打ち明けていい本音ではない、と、さすがに理解している。

「王女たちの心遣いを、負担と感じるはずがないでしょう。ただ、同席してくださるマリアンヌ王女にはいささか、申し訳ないと感じずにはいられませんが」
「フン。鍛錬に付き合わない事実を、多少は申し訳なく感じているのか」
「ええ。多少ですが」

 澄まして応えれば、マリアンヌ王女はひととき言葉を失い、悔しそうに唸る。ロズリーヌ王女は、あらあら、と楽しそうに、姉王女を見つめた。

「当然でしょう、おねえさま。アレクセイさまは『灰虎』の一員として認められるほど、お強い方なんですのよ。まだまだ未熟なおねえさまでは相手は務まりません」
「なにおう。わたしが未熟とはよく云ったな。これでもクリストフから五本に一本は取れるようになったんだぞ」

 クリストフとは、パストゥス王宮近衛副隊長の任にある若者である。マリアンヌ王女の鍛錬相手をしており、アレクセイも顔だけは知っている。貴族の若者だが、アレクセイが『灰虎』の一員と知ったとたん、顔を輝かせて勝負を挑んできた人物だ。

(そういえば彼も婚約者候補の一人だったな)

 そんなことを考えながら、微笑みを浮かべたまま、マリアンヌ王女を見る。

「彼は強いですよ。五本に一本、彼から取れるならたいしたものです」
「ならばわたしと鍛錬するかっ?」
「いえ、お断りします」

 さくっと云ってのければ、ついにマリアンヌ王女はテーブルに懐いてしまった。行儀が悪い。ロズリーヌ王女は手を伸ばして、よしよし、とマリアンヌ王女の頭を撫でた。

「拗ねてはなりません、おねえさま。よいではありませんか、たいしたものだと評価されたのですから」
「わたしはパストゥスでいちばん強くなりたいのだ。たいしたものだ、などと云うあいまいな評価で満足できるかっ」
「もう。またそれですの? おねえさまがいくら頑張ったとしても、いちばんはむずかしいと感じますわよ。いくらアレクサンドリーヌさまのようになりたいとおっしゃられても」
「アレクサンドリーヌ?」

 初めて聞く名前を繰り返せば、がばっとマリアンヌ王女は起き上がる。

「まさか知らないのかっ。深青あおの女騎士の名前をっ」
黄金きんの女帝陛下の朋友だったと云われる女性ですわ。わたくしたちのご先祖さまにあたります」
(なるほど)

 先祖に有名な女騎士がいるからこそ、パストゥス王宮は第一王女の鍛錬にも理解があるのか、とアレクセイは納得した。だからといって、「わたしよりも弱い男には嫁がぬ!」と主張し始めるとは、女王も宰相も考えなかったに違いない。

 二人が頭を抱える様子を想像し、笑いの衝動を誘われながら、唐突に気付いた。窮地に陥った王女二人を颯爽と助け出す寸劇。あらすじからわかる。企画した人物は、自らの強さをアピールしたかったのだ。

 すなわち、あの寸劇を企画した人物のめあては、マリアンヌ王女だったのではないだろうか。