窮屈そうだな、とは、魔道士たちを眺めていちばんに感じたことだ。
なにせ、他にも収監できる部屋はあると云うのに、ひとつの部屋に押し込められていたからだ。足音を聞きつけていたのか、格子越しに振り返った魔道士は、総勢、八名。女性が二名、男性が六名。検分するようにこちらを眺め、スキターリェツを見た魔道士は、あからさまに顔をしかめた。その指に、契約の指輪はない。キーラはほっと息を吐いた。
よかった、と思う。少なくとも、勝手に死なれるような事態は起こらない。
「ご気分はいかがですか。これまでさんざん好き勝手にふるまっていたようですが」
「お互いさまであろ、偽物王子。よくも我らが国で好き放題やってくれるものじゃ」
アレクセイの揶揄に応じたのは、最年長と思われる魔道士だった。
首に巻いている肩掛けは、黄色。黄衣の魔道士だ。この場にいる魔道士ではいちばんの高位だ。つるんと頭頂がはげていて、ふわふわとした灰色の髪が、頭の側面をおおっている。自分よりはるかに年上な魔道士の切り返しに、動じることもなくアレクセイは応じた。
「お言葉ですが、どこのどなたさまのおかげで、偽物王子がはびこる羽目になったと?」
穏やかな調子の、だが、強烈な皮肉に、魔道士は唇を閉じる。
対するアレクセイは、追求をゆるめない。あざやかな緑が、冷ややかに相手を見つめる。
「あなたがたはいったい何をしたかったのです。魔道士たちに課せられた規律も義務もなにもかも投げ打って、この十年、したことと云えば、そこにいる異世界人の知識だけを参考にした政治
「……あなたが、邪魔をするからでしょうっ」
「よさんか、ばかもの!」
アレクセイはどぎついほど、挑発的な口調で話した。
なにせ、魔道士たちにとっては精いっぱいの反撃だっただろう文書を、たかが研究成果の公表、と貶めている。たまりかねた女魔道士の一人が半立ちになりながら感情的に叫んだが、仲間の魔道士たちに抑えられたあたり、魔道士たちにもわかりやすい挑発だったようだ。
(なにを考えているんだろ)
この場の空気を読んで沈黙を守っていたキーラだったが、さすがに、アレクセイの意図が気になった。
わざわざ生かして捕らえた魔道士をいたぶるために、この場を訪れた?
まさか、とキーラの感覚が否定した。アレクセイは、この偽物王子は、ちがう。
自分だけが満足する理由で行動するような、そんな素直な人間じゃない。
(なら、なにを?)
ためらいながら、キーラは自分の感情を表に出さないように心掛けた。
いま、この場をアレクセイが支配しようとしている。だから彼の力になると決めたキーラが、足を引っ張るわけにはいかない。慎重に空気を読み、求められた役割を果たそう。
(まあ、そもそもの誘い文句を思い出せば、なにも求められていない気がするけど)
だったら、空気に徹していればいいだけだ。
だからキーラは、おとなしく目の前の寸劇を眺めていた。滅多にみられない寸劇だ、だから楽しむことにする、とは、開き直り過ぎだろうか。
アレクセイの挑発は続いている。
「あげくに、こんな状況なのになおも鎖国を続けて、自分たちのテリトリーにこもろうとしている。それならそもそも、あのような文書を諸国に送らなければよかったのに。――――なにを考えていたんです?」
「――――それを訊いて、どうなさるかな。偽物王子どの?」
意外なほどおだやかに、黄衣の魔道士が云い返した。 緑色の瞳が、ちらっと笑みを浮かべた。満足そうな気色はすぐに消えてしまったけれど、アレクセイの挑発的な態度は変わらない。口端をもちあげて、ただ、笑う。黄衣の魔道士が、さらに言葉を続けた。
「わしらを処刑する口実を欲しがっているわけではないのであろ。そんな口実、探さなくとも、現王への扱いを取り上げれば充分だものな。それなのにわざわざ、契約の指輪を解除させ(そう云いながら彼は、ちらりとスキターリェツを見た)、こうしてわしらを一か所に集めて拘束することで、長く拘束するつもりはないと示している。どういうつもりか?」
黄衣の魔道士は、アレクセイを見極めるように、目を細めた。
他の魔道士たちは驚いたのか、息を呑むように、格子越しに見つめ合っている二人を見比べている。ギルド長は沈黙したまま、スキターリェツはと云うと。
ちら、とアレクセイが目くばせした。スキターリェツにだ。ふう、と、憂鬱そうに息を吐いたスキターリェツは進み出て、「実を云うとさ」と、少々困ったように告げた。
「きみたちには協力してほしいんだ。こちらの、
偽物王子、と嫌味っぽくスキターリェツは云い添えたが、アレクセイは平然としていた。