王都に戻ってくれば、シンブンはいっせいに、魔道士たちの変死を取り上げていた。裏切りを防ぐ指輪など、シンブンを書く者達は知らない。だから一夜にして、ルークス王国すべての魔道士たちが心臓発作を起こして変死した、とだけ書いていた。遺体を検分した医師による見解も掲載されており、普通の方法ではありえぬ亡くなり方だと書かれている。

 すなわち、魔道ギルドの関与を示唆していたのだ。

 王都に帰還したキーラがいちばんに魔道ギルドを訪れれば、さんざんたるありさまだった。窓ガラスは割れているわ、生ごみがまきちらされているわ。「人殺し」とか「化け物」とか、罵倒を書いた紙まで壁に貼られている。魔道の基礎も知らない人間が無責任な記事を書いて、と、憤りながら、キーラは魔道士ギルドの扉をくぐった。

「キーラ」

 扉を開閉する音に気づいたらしい、奥からロジオンが姿を現した。やや憔悴した様子だったが、キーラを見るなり、ほっとしたように微笑んだ。思わず駆け寄って、その手をぎゅっと握った。「ごめんなさい」、自然とその言葉が出てくる。

「気づくのが、来るのが遅くなってごめんなさい。アレクセイ王子の命令で迎えに来たの。ここは危険だから、王宮に避難するように、って」

 するとロジオンは口ごもり、続いて出てきたレフが、呆れた様子で口を開く。

「行けるわけねーだろ、馬鹿女。魔道士殺害の犯人と目されているわしらが、いま、王宮に迎え入れられたら、アレクセイ王子が疑われる。わしらに魔道士殺害を命じたからこそ、かばっているんだってな。少なくとも、わしは行かねえ」
「わたしもだ。アレクセイ王子の厚意はありがたいけど、事態の解決にならないしね」
「なにを云っているのよ!」

 思わずキーラは大声を出して、つかんだままでいるロジオンの両手を揺さぶった。

「外の様子を見ればわかる。理不尽な嫌がらせを受けたんでしょう。このままじゃ、本当になにかがあるかもしれない。少なくとも、心は疲れちゃう。お願いだから、王子さまの命令を聞いて!」
「行かねえ、って云ってるだろ、馬鹿女!」

 すがるようなキーラの訴えに、レフは吼えるような怒声で応えた。

 いいか、よく聞け。ロジオンを押しのけながら、レフはキーラの肩をつかみ、噛みつくような勢いで言葉を並び立てた。間近まで迫ってきた顔は、ほとんどぼさぼさ髪で隠れていたが、思わず震えるような迫力を醸し出している。

「わしらはなにも悪いことはしとらん。間違った道を歩むかつての同胞であろうと、非道な魔道を用いて殺すほど、落ちぶれてもおらん。つまり、逃げ隠れする理由などどこにもない。――――ここで逃げたら、つまらんやつらの思うがままだろうが!」
「反撃ができないくせに! なに、馬鹿な意地を張ってるのよ!」

 確かに気圧されたが、このままではロジオンとレフが危ないのだ。必死で踏みとどまり、キーラも怒鳴り返すと、くす、と、場違いな笑声が響いた。ロジオンだ。にこにこと微笑みながら、くっつけんばかりに睨み合っている、キーラとレフを引き離してレフを見る。

「気持ちはわかるけど、うら若い娘さんを怒鳴るもんじゃないよ、レフ」
「うるせえ。そいつは娘っこじゃねえ。ガキだ、ガキ」
「なんですってえ?」
「ああ、うるせえ。本当に、おまえらはそんなところはよく似てやがる」

 うんざりしたように首を振ったレフの言葉に、ぴた、と、キーラは動きを止めた。アリアだ。いま、レフはアリアとキーラを比べた。顔をゆがめたキーラはたどるようにロジオンの腕を取り、ぎゅ、と服を握りしめた。温かな表情で、ロジオンがキーラをのぞきこむ。

「アリア、も、やっぱり、」
「……うん」

 いたわりのこもった腕がキーラを引き寄せ、温かな空間に導いてくれた。とん、とん、と、子供にするように背中を叩かれ、キーラはロジオンの胸に額を押し付けた。涙は出てこない。だってまだ、実感なんてできない。王都に戻ってきたばかりだから。

 ――――否定してほしかった。あり得ない、と、知りながら。