「魔道士ギルドには、魔道技術や研究成果を、戦闘ではなく生活に役立てようという目的があるんだもの。ルークス支部がそういう形で依頼を引き受けてもいいでしょう?」
「別に、だれも悪いとは云うておらぬが」

 キーラがさらに言葉を継げば、あごひげを撫でながらギルド長が口をはさむ。どことなく面白がるような口調は、むきになっている孫娘の反応が理由だろうか。

(いいや、そうじゃないだろうな)

 いちばんはじめ、キーラに会う前に、魔道士ギルドを訪れた際のやり取りを思い出す。

 チーグル共々、ルークス王国出身であるギルド長は、故国の現状を憂いていた。だからこそアレクセイがルークス王国を解放する行為に賛同し、紫衣の魔道士を紹介したのである。それも、後継者として指名した、キーラ・エーリンを。さすがに不思議に感じたアレクセイが追及すると、にやりと笑ってギルド長は紫衣の魔道士たちを招集した。

 ――――わしらは新しい本拠地を求めておるのじゃよ、『アレクセイ王子』。

 アレクセイが偽物である事実をチーグルから打ち明けられ、迷いなく沈黙を、アレクセイの共犯者となることを選んだ魔道士ギルド長と十二名の紫衣の魔道士たちは告げた。

 ――――時代はもはや、戦乱の時代ではない。小競り合いはあるが、かつてのように魔道士が活躍できる時代ではないのじゃ。だからこそ、わしらは魔道技術をもっと穏やかな目的に流用したい。なのに、この国、本部を設置しているウムブラが許さぬのじゃよ。

 ギルドに在籍している魔道士たちを、自国の軍隊になるようにと、たびたび要請している、と、ギルド長の物静かな秘書が付け加えた。

 ――――もう、うんざりでな。だからこそ、わしらはおぬしの味方となろう。もちろん、見返りはもらうぞ。偽物である事実を沈黙し、また、信頼できる仲間となる代わりに、わしらの自由をいただく。いずれルークスに本部を移した際、魔道士たちを自軍に加えない、決して魔道士技術を戦闘目的に利用しないと云う誓約をいただこう。

 だからこそ、アレクセイの仲間にはキーラが選ばれたのである。

 ギルド長の後継者として選ばれていたにもかかわらず、後継者として指名されている事実をいやがり、マーネで暮らしてきたキーラをわざわざ引っ張り出したのはそういう理由だ。

(いずれはルークス支部長が、実質的な、魔道士ギルド長となる)

 ちなみに最近、ギルド長がスキターリェツを後継者として追いかけ回していた。それはつまるところ、ウムブラの目をごまかすため、ウムブラ支部・・の長になるよう、スキターリェツに要請していたということである。スキターリェツは了承した。名目だけのギルド長、実質はウムブラ支部長と云う、面倒な役割を果たすと決めたのだ。

 キーラを護るために。

 キーラは何も知らない。だが、こうしてルークス支部長となって、いちばんに決定した業務は、たとえ魔道士ギルドへの不信を取り除くためであっても、生活に密着した依頼を受け始めることだった。傭兵としてではなく、何でも屋としての、依頼。だからギルド長にとって、現状はこのうえなく喜ばしく、誇らしい状況なのだろう。夢見た未来が、間違いなく訪れると確信できたに違いない。

(すでに歯車に組み込まれているんだ、おまえは)

 ギルド長と微笑ましい云い合いをしているキーラを眺めて、アレクセイは複雑に微笑む。

 当初はもっと、突き放すようにキーラを想っていたから、魔道士ギルドの思惑も、その片棒を担ぐことになる自分にも疑問を抱かなかった。仲間たちとは違う、かりそめの自由を与えるつもりでいた。むしろ、気づかないキーラを軽く侮りさえしていた。

 だが、いまは違う。

 味方であり続ける、というキーラの言葉が申し訳なくて、夢をあきらめようとする、その姿が哀しい。けれど唯一の味方として頼りにしている自分が苛立たしく、そのうえ、差し出されている好意をさらに利用しようとする自分が浅ましく感じる。

 あるいは、キーラの人生をこれ以上奪ってはならない、という自戒は欺瞞でしかないのかもしれない。唐突に、閃くように、アレクセイは思った。