宝箱集配人は忙しい。

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    02

     昼食を終えて職場に帰ると、そこはすでに戦場だった。

     僕が入ってきた事実にも気づかないほど、部下たちはあわてふためいている。しっかり規定通りに昼休憩をとってくださいね、と麗しの秘書どのに言い付けられていたから、僕はコルドン・ブルーをしっかり堪能してきたわけなんだけど、やっぱり休憩を切り上げるべきだったか、と、考えてしまうほどの混乱ぶりだ。

     そんな状況でも、優秀な秘書どのは僕に気づき、「室長」と呼びかけてきた。

     その呼びかけで僕に気づいた部下たちは、ぐるんと首を回して僕を見た。どの顔も必死だ。そんな顔つきで注目されると、さすがに少々、怖い。

    「室長っ! よかった、休憩が終わったんですねっ」
    「聞いてくださいっ。予想よりも進捗が早くて再配置が終わってないんですうううっ」
    「勇者たちを足止めするわけにはいきませんかっ」
    「今朝、届いた武具のサンプル、まだテストが終わってないんですよおおおっ」
    「勇者のアホおおお。俺たちの調整を無にしやがってえええ!」

     魂の底から振り絞る、それぞれの訴えを聞き流しながら、僕は自分の席に向かった。座り心地のいい椅子に腰掛ければ、この喧騒のなか、ただ一人、落ち着き払っている秘書どのが報告書を差し出してくれた。僕が戻るまでの短時間に、まとめてくれたらしい。

     さすがに、ギルドで配られた号外よりも詳細に、今回の状況が書かれている。うんうん頷きながら読んでいるうちに、喧騒は少しおさまってくれた。秘書どのの落ち着きが広がっていったんだろう。軽く気配を探れば、気恥ずかしそうな部下もいる。

     いつもの調子を取り戻し始めた部下たちに、僕は口端をゆるめる。二週間前、断れない筋から赴任してきた秘書どのは、どんな時でも拝みたいほど有能だ。さすがは元王太子なだけはある。

    「みんな、」

     報告書を読みながら、頭で組み立てた対処法を検証する。よし、これで行こう。そう決めながら口を開けば、緊張した顔で部下たちが僕を見るから、にっこり笑ってしまった。

    「予想より早い攻略だけど、想定内の出来事でもある。安心してもいいよ」

     僕がそう言うと、部下たちの顔も一気にほころんだ。うん、完全にいつも通りだ。今度こそ安心しながら、僕はそれぞれに指示を出していく。

     まだ、安心していてもいい。その言葉に偽りはない。ただ、急がなければならないな、と、考えていることは、おくびにも出さないように気を配った。

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