04

「勇者、か」

 部下たちに指示を出して、僕は紅茶を飲みながら呟いた。

 部下たちはすでに動いているから、いま、この部屋にいる人間は、僕と秘書どのの二人だけだ。僕達も次の仕事に取り掛からなければならないんだけど、全員に指示を出していたら喉が渇いた。だから水を飲もうとしたら、秘書どのが紅茶を淹れてくれたのである。

 流れるような作法で淹れられた紅茶は、しみじみと美味しい。

 王太子だったんだけどな、この人。れっきとした王族で、多くの人にかしずかれてきた身なのに、召使いの技能まで身につけているなんて、つくづくと有能な人だと僕は思う。

「邪魔ですよね。消しますか」
「いやいやいや、消しちゃいけないから!」

 紅茶の美味しさを堪能していると、秘書どのの過激発言がきた。

 僕は持っていたティーカップをテーブルに置きながら、あわてて秘書どのの発言を否定する。僕の勢いに押されたのか、秘書どのは軽く顎を引いて「そうですか」と応じる。

 いや、なんで残念そうなんだよ。いくら仕事が面倒になるからって、簡単に人を消そうとしちゃいけないよ。検討することすら、許されることじゃないんだからね、倫理的に。

 ましてや相手は勇者だ。

 勇者とは、いずれ世界を滅ぼすとされている魔王を倒せる存在だ。

 世の中には、多くの強者が存在している。勇者より強い存在も存在する。でもそんな強者にだって魔王を倒せやしない。とどめを刺せない。

 それができる存在は、魔王を「吸収できる」勇者だけだ。

 今代の勇者は、この国に誕生した。

 だから国の上層部は、勇者を鍛える手段として、この迷宮攻略システムを採用したんだけど、さすがは勇者とその一行。潜在能力も意識も高いパーティは修行と称して、迷宮を次々に攻略している。結果、予想以上の進捗に、僕たちは困っているわけだ。

「そろそろ魔王討伐に旅立ってもいい頃合いなんだけどな。そういう話、聞いてない?」
「神殿から催促を受けて、宰相が勇者に旅立ちを促した、と聞いています」
「ああ、やっぱり動いてたんだ。でも、『促した』?」

 違和感を口にすると、秘書どのの麗しい顔が苦虫を噛み潰したように歪んだ。

「……愚妹が、勇者に執着しておりますから」

 告げられた内容は、僕もほとんど忘れていた事実を指摘するものだった。