06

『おぬしも懲りない男だなあ』


 呆れを隠さない言葉が、僕の脳内で響く。同時に、るるる、という音が耳に届く。


 激しく呼吸を繰り返している僕は、ぐったり床に横たわっている。部下たちには見せられない情けない姿だが、そんな僕を見ているのはたった一人だから、いいだろう。

 この、大きな空間のあるじが、紫色の瞳で僕を眺めている。

 どういう状況なのかといえば、僕が戦闘を挑み、彼女に打ち負かされたところだ。

 これで何戦目になるんだろう。いまのところ、全敗である。彼女に挑むようになって、それなりの年月が流れたが、これまで一度も勝てたことがない。僕は決して弱くないとは思う。それでも彼女には勝てない。

 それほど抜きん出た存在なのだ、ドラゴンとは。

 呼吸が少し落ち着いて、ようやく僕は首を動かした。視界のほとんどを占める巨体を見つめて、乾いた唇を動かす。無様に負けた身だけど、それでも異論は唱えたい。

「懲りるはずがないでしょう。僕は一度決めたことは頑張る主義なんです」
『そちらではない』

 僕の発言に対して、むしろ、そっけない響きの言葉が返ってくる。


 そちらではない、とは?

 不思議に思った僕は、身体を動かして起き上がった。とはいうものの、まだ床に座り込んだままだけど。ふう、と息をついて彼女を見上げれば、ドラゴンは、半目になって僕を見下ろす。優美な姿には少々不釣り合いな、感情豊かな仕草だ。

『おぬしの秘書の話だ。あの男がおぬしから離れるはずもない。あんな男を元の地位に戻そうなんて、おぬしはつくづく懲りないなあ、という意味だ』
「なんだ、そっちですか」

 戦闘を挑む前、優秀な秘書どのの進退について、僕は軽くぼやいたのだ。

 なぜだか本人は、僕の秘書でいると固く決意しているけれど、僕程度の説得では揺らがない人だと知ってもいるけれど、それでも僕はもったいないと感じてしまうのだ。次期国王にふさわしい、とても優秀で頼もしい人だとわかっているから、余計に。

「懲りないとは心外です。僕の心情はご理解いただいているものだと思ってました」
『理解している。だが、世の中には諦めるしかない、受け入れるしかないこともあるのだ。自分以外の存在を変えることなど不可能だと、そなたも知っていよう?』

 世俗を離れているドラゴンの、ずいぶん世慣れた発言に、僕は笑ってしまった。

「まあ、そうですね。ましてやあの秘書どのです。僕なんかの説得で意思を変える人ではないと、よくよく、わかってますよ」

 だから僕のぼやきは愚痴以外の何者でもないのだ。彼女に愚痴ってしまった事実を、僕は格好悪いなあと感じた。彼女は話しやすいからついつい口が滑ってしまう。反省だ。

『……いや、ある意味ではすでに変わってしまったからこそ、あの状態なのではないか』

 なんとも複雑な響きの言葉が返ってきたから、僕は軽く首を傾げた。

 彼女の言葉は、時々、意味を捉えられない。まあ、深遠たる思考を持つドラゴンなのだ。平凡な人間には発言の意味を捉えられないときもあるよな、と、僕は考えている。

 半目になっていた瞳を閉じて、しばらくして再び瞳を開けたとき、彼女はすっかり気分を切り替えたようだった。口を開いて、そもそもの本題に触れてきた。

『それで三十一層の封印を解いてほしいと?』

 僕も姿勢を正した。その申し入れのために、僕はドラゴンを訪れたのだ。