15
駆けつけてきた自警団に、事情を話して襲撃者たちを引き渡した。
その時の自警団たちの様子から察するに、襲撃者たちにはどうやら余罪があるらしい。しっかり追求しておきますから! という言葉を信じて、僕たちはその場を去った。
しばらく無言のまま、僕たちは歩き続ける。
やがて大きな通りに出たところで、僕は貴公子の名前を呼んだ。なにやら考え事をしていた様子の貴公子は、ようやく我に返ったようだった。いま、いる場所がどこなのか、ようやく気づいたそぶりを見せ、苦笑を浮かべた。
「もう着いたのか」
僕はいささか、わざとらしくため息をついた。
「危なっかしい人ですね。あんな目に遭ったばかりなのに考えごとですか」
もちろん本気の揶揄じゃない。この男ならばどんなトラブルと遭遇しても、どうにか退けるだろうという信頼は出来ている。
ただ、不思議に思ったのだ。トラブルを撃退し終えて、あとは自宅、もしくは滞在している宿屋に戻って休めばいい段階なのに、何を考え込んでいるのだろうか、と。
僕の言葉に、貴公子は笑い、ちょっと、迷った様子を見せた。
あからさまに何かを言い淀んでいる様子だから、首を傾げた僕は貴公子を促した。
「……ここでそなたと別れていいものか、わからなくてな」
「はい?」
何を言い出したんだか。聞き返した僕に、貴公子は困ったような眼差しを向ける。
「そなたは気づいてなかったようだが、そなたにも、追跡者はいたのだぞ?」
「はい?」
同じ言葉を繰り返してしまった。
僕に、追跡者? 心当たりがない。
困惑している僕に、貴公子は詳しく教えてくれた。いまは気配を感じないらしいが、そもそも通りで僕を見かけたときから、僕の様子をうかがう存在がいたのだという。
僕はむうと唇を曲げた。
「ちなみにいまは、いないんですね?」
「酒場に出たときにはすでに感じなかった。代わりに、自警団に引き渡した彼らの気配を感じたわけだ。追跡を交代したのか、とも考えたのだが、力量に差がありすぎるし、そもそも彼らの目的はわたしだったから目的が違う。そなたの追跡者は、そなたがわたしと合流したところを見て退散したのだろう」
「だから、僕を一人にしていいものかどうか、悩んだんですね?」
「うむ」
あっさりうなずかれて、僕は息を吐いた。ぐりぐりとこめかみを抑えながら、考えた。
結論、問題はないな。
僕に気配を悟らせなかったという点に、確かな脅威を覚えた。
でも相手の思惑がわからない。職場から酒場に向かう僕を追いかけながら、貴公子と合流した途端、追跡を取りやめた理由はなんだ。考えたけれど、僕には思いつかなかった。
ただ、いずれにしてもいま、気配を感じないのなら、問題はないと思える。
自宅で待ち構えている可能性もあるけれど、それならそもそも追跡する理由がない。だから僕は、こめかみから指を外して貴公子を見た。に、と笑う。
「大丈夫ですよ。お分かりでしょう?」
僕がこの短い時間に考えたことを、貴公子も考えたに違いない。問題ないと結論づけたはずだ。それでも他人事だから、心配は尽きなくて、懸念を口にしてくれたのだ。
その判断に感謝する。
あとは僕の問題だ。災難という形で我が身に降り掛かってきたら、全力で抗おう。その心構えくらいは、常に持っている。これでも冒険者ギルドの中間管理職なのだから。
その気持ちが伝わったのか、貴公子もかすかに笑った。
「また、飲みに行こう」
「ええ、必ず」
そう言って僕たちは別れた。
僕は追跡されていた事実を意識しながら、いつも通りに帰宅して、何事もなく寝た。