宝箱集配人は忙しい。

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     姿を見せた騎士たちは、秘書どのに向けて膝をついた。

     それに対して、秘書どのがゆったりと腕を組む。脇からちらりと見上げれば、冷ややかな眼差しを騎士たちに向けていて、おお王族っぽいなあと僕は考えていた。

     すっかり他人事の意識でいる理由は、もはや詰問は秘書どのに任せたほうがいいと考えたからだ。秘書どのはもう王太子じゃない。けれど王族として騎士団に詰問できる資格がある。追跡対象といえど、僕が詰問しても得られない答えを引き出せると思ったんだ。

    「マリアンデールの指示か」

     秘書どのは騎士たちの所属に見当がついていたんだろう。彼が断定調でそう言ったら、一人の騎士が深く頭を下げる。その通り、ってことなんだろう。

     それにしてもマリアンデールだって?

     秘書どのが告げた名前は、この国の王女さまの名前だ。いままで接触したこともない王女さまがなぜ、近衛騎士団に僕を追跡させるんだろう。さっぱりわからなくて首を傾げていると、秘書どのが大きく息を吐いた。呆れたようにも疲れたようにも聞こえるため息。

     あれ。秘書どのにこの追跡を不思議がっている気配がないように感じるんだけど。

    「王家の守り手たるおまえたちが、唯々諾々と従っていい命令ではないだろう。この件は父上にも申し上げる。おまえたち、忠誠を発揮すべき場をよくよく考えよ」

     わかったのならば戻れ。秘書どのがそう言えば、騎士たちはいっせいに頭を下げたあと、立ち上がってこの場を立ち去る。一人の騎士が僕をちらりと見たが、それだけだ。

     あれ。具体的な詰問とかないままに、解散になってしまったんだけど?

     騎士たちの後ろ姿を見送ったあと、僕はじとりと秘書どのを半目で見上げた。僕の視線を受け止めて、秘書どのは困ったように眉を下げる。

     そんな表情に誤魔化されるもんか。

     今度は僕が呆れたように息を吐いて、口を開いた。

    「僕の意見を聞かずに、彼らを帰した理由は?」
    「申し訳ありません」
    「なぜ王女さまが僕を近衛に追跡させるんだい。せめてその理由を聞かせてくれよ」
    「申し訳ありません」
    「彼らの目的は僕の家を突き止めることじゃないよね。暴行を加えるつもりだった?」
    「申し訳ありません」
    「……きみ、いつから鸚鵡になったのさ」
    「……申し訳ありません」

     同じ謝罪を繰り返すだけだなんて、有能な秘書どのらしくもない。

     ただ、まあ、秘書どのの反応からわかった点はある。僕への追跡は王女さまの独断だ。その理由はわからないけれど、秘書どのは妹王女の行動理由を把握していて、そしてそれを話すわけにはいかないと考えている。おそらくは愚行と呼ばれる類の理由なんだろう。

     だったら、秘書どのがこれ以上、話すはずもない、か。

     もう一度、僕は息を吐いた。秘書どのは沈んだ表情で僕を見つめている。親指と人差し指で丸を作った。作った丸をツツツと秘書どのの額に近づけて、ピンと弾いてやった。

     けっこういい音がした。秘書どのは弾かれた額を抑えて、驚いている。

     いつも取り澄ました表情を浮かべてる秘書どのにしては、珍しい表情と言えるだろう。

    「黙秘は今回限りだよ。仕事に絡まない理由のようだから、これで許すことにする」

     仕事に関する事柄なら、黙秘は絶対に許さないけれどね! 僕、責任者だから。

     でも今回は秘書どのの家族が絡む問題だ。だとしたら一回くらいは譲歩してもいいだろう。ここまで頑なな態度を見せる以上、秘書どのは同じ事態を繰り返させないだろうし。

     秘書どのが苦笑を浮かべる。不思議と甘やかなようにも感じられる微笑みだった。

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