宝箱集配人は忙しい。

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     一国の王女さまが冒険者ギルドの一職員である僕を追跡させる。目的も動機も不明なままだけど、秘書どのがこの件を引き受けてくれたんだ、問題はないと考えてた。

     考えていたんだけどね、それは少々、甘かったみたいだ。

     僕は今、なぜだか王宮の一室にいる。そう、王女さまの招きに応じた結果だ。

     朝、いつも通りに出勤しようとした矢先、王女さまの使いとなった近衛騎士に呼び止められたんだ。やっぱり僕の家は突き止められていたんだな、と考えつつ、丁重な態度の近衛騎士の態度に思うところがあった。周囲の視線を集めているにもかかわらず、かしこまって僕に対応している姿に、仕事人のつらさを感じとってしまったんだ。秘書どのの言を思い出せば、無視してもよかったのに、素直に従った理由はそんな理由だった。

     王宮に着いて、控えの間らしき部屋に通された後も、丁重な扱いは続いていた。

     だから僕は安心して、王女さまを待っていた。

     いつもの出勤時間はとうに過ぎている。定刻になっても出勤してこない僕に、部下たちは心配しているだろうなあ、と考えたところで、王女さまがいらしたと知らされた。立ち上がって、控えの間に続く応接室に向かう。

     朝の光を背中から浴びて、我が国の王女さま、マリアンデールさまが僕を待っていた。

     僕は遠目でしか王族を拝見したことはない。だから王女さまの容姿については、噂しか知らない。もともと王族は美形揃いの一族だけど、王女さまは絶世と名高い美貌の現王妃に瓜二つだとか。まだ十四歳であるにもかかわらず、すでに各国から縁談の申し込みが殺到しているんだとも聞いている。

     事実、目の前に佇む王女さまは、麗しいお人だった。赤みを帯びた金の髪に、深く澄み切った青い瞳。美人を表現する言葉に、人形のようなという表現があるけれど、とても人形には思えない、どこまでも精彩に満ちた、輝かしいお人だったんだ。

     王女さまは入室してきた僕を見て、パチパチとまつ毛を瞬かせた。秀麗な顔立ちに困惑を浮かべた王女さまは、かすかに首を傾げて、おっしゃったんだ。

    「……ヴァーノン室長は、女性ではなかったの?」

     王女の背後に控えていた侍女が「こほん」と大きく咳払いをする。王女をたしなめる咳払いに、王女は軽く肩をすくめた。そして僕はその一言で事情を察してしまった。

     そうかー。恋する乙女の暴走が、つまりは先日から続く追跡だったわけか、と。

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