戦装束

「おかしいと思われませんか、お2人とも」

号外を放り出して、シーナは2人を追及した。老人と大男はそれでも飄然とした態度を崩さない。
いらだたしげに髪をかきあげ、次にぶつける言葉を考える。だがそんなシーナにぶつけられたのは次のような言葉だった。

「おかしい、と、思っておるよ」

シーナは硬直し、「それなら!」と叫んだ。
だが、とシュナール老が厳しい表情を崩さないままに云ってのける。

「それがなんだというのかね?」
「!」

シーナは口を開いて、そして無力に閉じた。
そうなのだ。ミカド・ヒロユキはすでに次なる閣僚を定めて侵攻を続けているとある。

それはもう、信じられないほど苛烈な侵攻で、だからこそ帝国内で彼の名は上がり、帝国外では彼の名は貶められていると云う。

シーナはもどかしげに唇をかんだ。シュナール老はちらりと号外に視線を落とす。

「とはいえ、いささか度が過ぎておるのぉ」
「そうですっ。このままでは」
「まるで憎まれるために侵攻しているようじゃ」

シーナはぴたりと口を閉じた。憎まれるために侵攻している? 意味がわからない。
今回の帝国侵攻は、帝国をより豊潤にさせるためのものだ。ミカドへの憎しみは、すなわち帝国への憎しみとなる。それがわからない将軍ではなかったはずなのに、と云うシーナに、それにのう、とシュナール老は言葉を続ける。

「ミカド自身が我らが戻ることを望んでおると思うか?」

それは、なかなかに手痛い指摘だった。

号外に記されている、ミカドは次なる閣僚を定めた、とある。当然、シーナの居場所も、2人の居場所もないだろう。それどころか、無断で軍を離れたと処罰の対象になりかねない。

それでも、納得できることと出来ないことがある。そしてこれは、後者の類だった。
ずっと沈黙していた攻撃隊長であった男が口を開く。

「いっそ、ミカドに反抗する勢力に身を投じた方が奴の本音がわかるかもしれないな」
「なっ」
「おお、それはいい考えだのう」
「何をおっしゃっているのです、お2人とも。本気なのですかっ」
「敵の立場であればこそ、見えてくるものがあると申しているのじゃよ、シーナ」
「やめてください。お2人に敵となられたら、ミカド将軍の御心が傷つきます」
「それじゃ」

え? と思いがけない言葉を聞いたように、シーナは戸惑い目を瞬かせた。
シュナール老は元の鋭さを取り戻している。

「ミカドはこれまでアルテミシアさまの評判を落とさぬよう心を砕いていた」
「ですがいまでは、アルテミシアさまの評判は落ちておりますけど、」

あっ、とシーナも気づいた。ミカドがその事実に気付かぬはずがないのだ。なのにあえて苛烈な侵攻を行っている。それはもしかしたら、アルテミシア皇帝自身の命令だからではないのか。

口惜しいことだが、ミカドを動かしているのは乳兄妹でもあるアルテミシアだけだと云う事実を知っている。
そうと思えば、シーナはぎゅっと拳を握った。アルテミシアがミカドに非情な命令を下したと云うのか。

それは、どういうことなのか。

「何か事情があると思わぬか。ミカドの態度の急変に」
「アル、テミシアさまでしょうか」
「それだけではあるまい。おそらくは、アルテミシアさまにも変わってしまった理由があるのだ」

腰かけ椅子に身体を預けていたシュナール老は「さて」と立ち上がる。
放置されたままの剣に手を伸ばし、腰に装着する。男もそれに倣った。2人の意図がわからぬシーナは戸惑い、そしてわからぬまでも扉の前に立った。

「どこに行かれます」
「もちろん、レジスタンスのアジトじゃ。すでに調べは付いておる」
「本気でミカド将軍の敵にまわられるおつもりですか!?」

声を上げると、シュナール老はふっと笑って見せた。その笑みには剣聖とも謳われた自身への自負がある。
老人にしたがう男は静かに立っている。まるですべての意思を老人に預けたと云わんばかりだ。

「嬢や。わしは弟子を見捨てるような真似をせんよ。それどころか、愚かな道に進みかけているのならば正してやるのが道理」
「シュナール老」
「わかったらそこをおどき。どうやら嬢には耐えがたい方法のようだからな」

そうして男の腕が伸びる。ぱん、とシーナはその腕を払った。

「莫迦にしないでください。そこまで聞かされて、私がおめおめとお2人だけに行動させると思うのですか」

宿屋に残していた剣を同じように腰につけ、マントを身につける。同じように戦装束を元通りにまとってシーナは振り返った。

よいのか、と、シュナール老は告げる。

「我らの目的は、ミカドを止めることであるぞ。剣を交わすことすらあるかも知れぬ」
「その時は身を張って将軍をお守りします」

ふ、と男は笑った。シュナール老も微笑みを浮かべ、先に歩きだす。シーナは慌ててその後を追った。
 

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