的中

    (――――あ、)

    馴染みの本屋から歩き出した時、知り合いを見かけた。よく話をする、わりと仲の良い同期。
    彼のことを話した友人からは「好きなんでしょ」と突っ込みを受けた。そうなのかなあ、とぼんやり考えた端から、自分で否定した。

    だって、彼にはもう付き合っている人がいる。
    そんなたぐいの話をしたことはないけれど、雰囲気や他の人との話から、なんとなくわかるものだ。

    (ほらね)

    誰かに語りかけるように、心の中で呟いてみる。ほらね、彼には可愛い彼女がいたでしょう。
    推測していたことだから、落胆なんてしない。しないのだけど、不思議なことに、瞳は彼から離れなかった。歩いていく二人はやがて視界から消える。そのぎりぎりまで、立ち尽くしたまま見つめる。初めて見る、彼。ぐっと絡んでいる手と手のひら。

    (ほらね)

    今度の呟きは、なんだか無意味だと感じる。小さなきしみをどこかで感じている。
    どうしようもなく、自覚してしまいそうだ。

    あの人には付き合っている人がいる。その予感が的中して、沈んでいるこの心の名前に。

    012:的中▼
    (現代もの 誰かに片想いの彼女)

    ちょっと間が空いてしまいました。だからというわけではないけれど、短文です。ホースからの水をわざとぶつけて「あらごめーん」って感じで始まる恋愛を書こうと思ったのですが、指はいつの間にか、このようなしっとり系を書いておりました。や、しっとりというより切ない系?? つか、この違いはどこから来るのだろう。違いがまだ分からない女、深谷みどりでした。

    2011/07/29

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