自慢のコレクション

ひさしぶりなんだ。
時間がようやく空いたから、長く訪れなかった場所に足を向けると、≪彼≫は挨拶もそこそこに語り始めた。こちらの困惑など、まったく気にもしない。

一方的にべらべらと話している≪彼≫を眺めて、懐かしい反応だなあと感じた僕は、さらに記憶を探った。ええと、≪彼≫がいま、夢中になっているものは何だったっけ? でも≪彼≫に示された壁一面を見て思い出した。

ああ、そうだった。かつて≪彼≫を苛めた存在の、――の収集。

それがいま、≪彼≫が夢中になっているものだっけ。うつろにまぶたを開いた――に対して特別に惹かれる嗜好はないけれど、防腐処理をほどこされたコレクションを熱心に語る≪彼≫には猛烈に惹かれる。へらへらと笑いながら、どこか憑かれたように語り続ける≪彼≫は頬を上気させ、瞳をキラキラ輝かせているんだもの。コレクションに向ける眼差しは優越感と復讐心に彩られていて、とっても生気に満ちているんだ。

(ああ、かわいいなあ)

仕事で荒んでいた心がゆっくり凪いでいく。
頬をゆるめながら僕は≪彼≫との出会いを思い返していた。

そう、あれはもう三年前になる。ほんのきまぐれで地球に訪れた月兎族の僕は、ぼろぼろになってやけ酒を飲んでいた≪彼≫を見つけたんだ。なんでもリストラという仕打ちをされたらしい≪彼≫は公園の噴水前に腰かけながら僕にぼやいたものだ。

一生懸命働いても報われないと嘆いていた≪彼≫は、べろべろに酔っていたんだろうね。ちょっとした下心を抱きながら相槌を打っている僕の提案を、素直に喜んで受け入れたんだもの。僕が提示した条件がいくら好ましかったからって、もう少し疑うことを覚えたほうがいい、と、いまでも僕は思っている。ま、都合よかったんだけどね。

だって僕はどうしても≪彼≫が欲しかった。そのためなら、彼を苛めた存在を捕まえて、―――しまっても面倒だとは感じなかったな。

あのときの、僕の判断は間違っていなかった。しみじみと感じている。僕にはそういう趣味はなかったはずなんだけどなあ、と苦笑しながら≪彼≫の言葉を聞いていると、ようやく落ち着いたらしい≪彼≫は赤面して、僕のためにお茶を淹れてくれた。

不調法ですまないって? いいんだよ、と微笑みかける。

だって、きみのコレクションを見ることができるのは、きみの収集癖を許容できるのは、僕だけなんだもの。きみのコレクションを悪趣味だとも感じないよ。だってきみの自尊心を粉々にした存在なんだ。無残に―されてもそれは自業自得と云うものだろう?

でもせっかくのコレクションなんだから痛めつけるのはやめておいたほうがいいね、と忠告しておいた。恥ずかしそうにうなずくきみは、ああ、なんて素直なんだろう。大丈夫だよ、――の修復出来る存在もつれてきてあげるからね。そう云うと≪彼≫は、はにかみながらお礼を云った。でも僕は、ちらりとその眼差しに過ぎった翳りを見逃しはしない。

――――こういうとき、ちょっとだけ申し訳ないなあ、と感じるんだ。僕のスカウトを受けて、ここに来てくれた≪彼≫はいやおうなく、孤独な状況に置かれている。趣味に没頭できるからいいんだ、と≪彼≫は云ってくれるけど、僕は気づいているよ。ときどき、きみが寂しそうな眼差しで地球を見あげていること。

(帰りたいんだよね?)

でもごめん。僕はきみを手放せない。きみは本当はここにいるべきじゃない。それでも、僕はきみに、ここにいてほしいんだ。

だからせめてものつぐないに、きみにぴったりの奥さんを探している。きみと同じ、純粋な古モンゴロイドの雌。低めの身長、薄めの肌の色、発達した頬骨、横広の顔、鼻梁が高く、両眼視できる――――いまとなっては希少価値としか言いようがない、きみと同じ特徴を備えた雌を探している。きみの収集癖にも理解を示してくれるような、そんな雌をね。

見つけたらここに連れてこよう。そうしたら、きみには家族が出来る。子供も作ればいい。そうしたら寂しくないだろ。僕も寂しそうなきみを見なくて済むし、いいこと尽くしさ。

フフ、手間なんかじゃないさ。僕と共にお茶を楽しみながら、うっとりとコレクションを眺めているきみなら、きっといまの僕の気持ち、理解してもらえると思うんだ。

だって自慢すべきコレクションなら、もっともっと充実させたいと願うものだろう?

018:自慢のコレクション▼
(サイコ 人外である《僕》のコレクションはきみ)

初夏だから! ほの暗い話を目指してみました。背筋がぞっと寒くなったら書いた甲斐があります。もっと容赦なく描写出来たらよかったのですけど、かのパゾリーニ監督ほど徹底できなかったなあ。裏テーマは因果応報。――の部分は、ほの暗い言葉を入れていただけたら、たぶん正解です。しかし書いていて、精神的打撃を受けましたがな。くぉーっ、次は明るく健全な話を書くぞーっ。

2012/06/18

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