YES

    ————-約束を、覚えているか。

    この時代、王の仕事とは存外つまらないものだ。
    議会によって決議された書類に、王の名前で印を押す。
    そんなものだ。

    はるかな昔、それこそ英雄譚に登場する時代であれば、能動的な仕事は多かっただろう。けれどもいくつかの革命を超えたこの時代には、王の仕事は単調なものに成り果てている。しかたあるまい、時代の主役はもはや王侯貴族ではなく、統治してきた民なのだから。代わりに王はささやかな自由を得ている。ありがたい限りである。

    書類仕事に一区切りをつけて、王は王宮内の庭に散策に出た。

    急に思い立った形の散策であっても、セキュリティなどの理由につき、その場に誰がいるのか、王はすでに知っていた。学生時代からの付き合いによって、婚姻を結んだ王妃。朗らかな表情が魅力的であった彼女は、親しい友人たちに見せていた笑顔を、もはや王には見せない。理由はわかっている。彼女は今の生活に満足していないのだ。

    「息災か」
    「陛下こそ」

    交わした言葉は、わずかこれだけ。

    砂を噛むようなやりとりだと、言ってもいいのだろう。
    王自身はそう感じている。

    こんなはずではなかった。
    少なくとも、あの約束を交わした理由は、今のように味気ない生活を送るためではない。

    なぜ、こんなやりとりが当たり前になった。
    なぜ、王妃は微笑みすら見せなくなったのだろう。

    ————–汝、病める時も健やかなる時も、………

    あの誓いの前に交わした約束を、王妃はまだ覚えているだろうか。
    王は覚えている。だからこそ、わずかな自由を行使することができない。

    021:YES▼
    (ファンタジー? 王さまと王妃さま:王さまサイド)

    こちらのお題を見たときに、これは22番のお題と対にさせたいなあと思いました。で、スルスルっと形にした物語(?)がこちらです。や~、何年振りにしあげたお話だ? でもでもちゃんと文章にして公開できるようになって嬉しいです。わたし、まだ文章が書けるんだわぁあああっ!

    2019/08/22

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