「こぉんの、ちびすけ———-!」
思わず叫んでしまった理由は、これから着替えようしてたワンピースに粗相されてしまったからだ。
犯人は、数日前に我が家にやってきた柴犬の子供。名前はまだない。
怒ろうと思ったけれど、家を出なくちゃいけない時間は迫っているしどうやら時間も経っているとみた。
だから他のワンピースに着替えて、その時はそのままにして出かけた。
(これってよくないんだよね)
犬のしつけについて、あれこれと書いてある本はたくさんある。
その中でも代表的な内容は、「いたずらをしたらすぐその場で怒りましょう」
でなければ犬は、どうして怒られたのかわからず、ただ、怒られたと思うだけです、と。
わかっているけれど、一人暮らしで仕事をしている以上、すぐに怒られない状況がしばしば発生する。
おまけに、仔犬はまだまだ遊びたい盛りのやんちゃ盛りだ。仕方ないと思っているのだけど。
(って、わたし、ちゃんと窓を閉めてきたわよね!?)
出かけてしばらく経ってから思い至った。
ここのところ、すっかり涼しくなった。だから冷房ではなく窓を開けて換気させていたのだけれど、もし開けたままで来ていたら? あのやんちゃざかりの仔犬のことだ。窓を破ってマンションの下に落ちたりしていたら……!
そう思い至ってしまえば、無理だった。もう公共機関に乗っていたけれど、次の停留所に降りて引き返した。待ち合わせ相手には、ちょっと遅れると連絡済みだ。長い付き合いだから「気長に待ってるよ~」という返信が届いて気が楽になった。
「ちびちゃん!」
あわてて玄関の鍵を開ければ、そこにはちゃんと座って待っている仔犬がいる。まだ少し崩れた形になっているところがご愛嬌だ。「アン!」と尻尾をふりふり、嬉しいんだってわかる様子でわたしを見上げている。もう。もうもうもう!
「アンじゃないよ、このおばか~!」
いや、おバカなのはわたしなんだけど。走ってきたから息も絶え絶えになっている状態で戻ってきて、何をやってるかな、という状態なんだけど。嬉しそうにベロベロと顔を舐められたら、もうどうでもよくなる。粗相されてもカーテンを破かれても、大好き! って全身で訴えてきているこの子を抱きしめてしまったら、もう、ね。
いや、これから窓を閉めてるかどうか、確認してまた出ていかないといけないんだけどね。
029:息も絶え絶え▼
(現代もの 新米飼い主)
動物を飼い始めた時、留守にすることに慣れてない時期に、大慌てした時期があります。まさしく同じ内容で、窓を開けてきてるんじゃないか。その時は泥棒に入られるより、家の中の子が脱走するんじゃないかって、そのことばかり思ってました。ええ、同じようにあわてて家に戻りましたとも! ペットが世界の中心を回っている。振り回されて、それでもしあわせなんですよね。
2019/08/30