納得いかない

    納得行かぬ。

    吾輩がこの家にやってきて、はや七年。
    あるじどのに認められ、一家の用心棒として毎日を過ごしているのでござる。

    決して、決して。
    吾輩の役目は、うら若き娘の面倒を見ることではないのである……!

    「あ、ほら。見てよお父さん。若がミケに懐かれてる」
    「ほー。仲悪い印象があったけど、猫と犬って仲良くできるんだなあ」

    あるじどの、姫ぎみ。
    勘違いされておりませぬか。

    吾輩は確かに、皆様のしもべでございますれば、やれと言われたことは致します。
    ですが、ですがこれはあまりにも……!

    とはいうものの、吾輩に落ち度がないとは言えませぬ。
    吾輩の懐に潜り込んでいる娘がすやすやと眠っております。
    あまりにも幼い娘でありますれば、健やかな眠りを破るのは心苦しい。
    だからこそ、動かずにじっと「待て」をしておりまする。

    が、吾輩の沽券に触れる問題でありますれば、この場より吾輩は退散すべきではないかと思い至ったのでござるよ。

    んなああ。

    「あ、ほらほら。若、泣いてるよ~」

    姫ぎみが教えてくださいますが、それならばあやしてくだされと吾輩は申し上げたい。

    小さな娘が泣いております。
    吾輩の懐にて、小さな娘が頼りなく。

    ……しかた、ありますまい。

    吾輩はついには抵抗を諦め、誇り高き武士としての矜持も忘れ申した。
    これより吾輩は小さな娘の面倒までも致しましょう。それが、あるじどのの命でありますならば。

    納得はいかぬ。されども、納得するしかありますまい。
    それが、吾輩に下された新たな命でありますならば。

    030:納得行かない▼
    (現代もの 武士な犬)

    難産でした~! シリアスに決めようか、コメディに決めようか。悩んだ挙句にこんな感じに指が動いておりました。あれですね、悩むよりも書け、ということですね……! 書いたら書けるんだよ、いざキーボードに向き合えば書ける時もある。うん、得難い経験です。学習した!

    2019/09/02

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