欠片

    「そう。例えるならば、これは欠片だ」

    魔法使いがそう言いながら、くるりと水晶に見えるものを指先で回した。
    水晶に似た何かは、けれども中心に微かな炎を宿している。

    「欠片?」
    「そう。はるかなる太古、本当の魔道使いたちが使用していた魔道具のかけら」

    それが時を経て、わたしのもとにたどり着くとはなかなか興味深いな、と、魔法使いはいう。
    その表情にはなぜか、自嘲の気配が漂っていて、わたしは首を傾げた。

    魔法使いは、魔法使いだ。
    彼の他に、その称号にふさわしい人はいない。

    そりゃはるか太古には、本当の魔法使いがいたのだろうけれど、現代に生きるわたしにとって、魔法使いはただ一人。
    目の前で白衣を着たユーリアス、ただ一人なのだ。

    だから彼の抱く感情などさっくり無視して、あっけらかんと問いかけた。

    「それで、これ、お金になる?」

    すると彼は呆れたようにわたしをみた。
    結局、たどり着くのはそこなのか。雄弁な眼差しにわたしはむしろ胸を張ってやった。

    悪いか。天涯孤独のトレジャーハンターにとって、換金できるかどうかが、大切な価値基準なのだ。

    035:欠片▼
    (現代もの? 自称魔法使いとトレジャーハンター)

    欠片というお題を見た時、冒険活劇の始まりを連想しました。かけらが手に入る。残りが引き寄せられる、みたいな。舞台は現代を考えてます。魔法使いは、本当の魔法使いというわけではなくて、占星術の研究者とかそういう感じ。ただ主人公の女の子にとっては、「こいつはすげえな」と感じる出来事があったから「魔法使い」として扱っている設定ができました。ほら、料理下手な人にとって料理上手な人って魔法の手を持ってる、って感じるじゃないですか。あんな感じ。

    2019/11/12

    目次