終、あるいは始。いま、ここにある刹那の永遠。

(まだ、開いていない)

店の前まで歩み寄って、どことなくそわそわする心地で呟いた。慣れない格好ではなく、結局いつもの格好で訪れることにした。扉の向こうに人影が見える。時計を確認した。間もなくの開店となるだろう、それまで時間をつぶすとするか。踵を返して歩き始める。

やがて辿り着いたのは、いつか訪れた公園だった。
以前人に連れられて訪れた場所である。再び見知らぬ魂に怒鳴りつけられるかと思った。しかしそんなことは起こらず、ただ、湖面は静かなままだった。

――いつか、……。

水面を眺めていると、不意に脳裏に声がよぎった。懐かしい声だ。もうこの世には存在しない、わたしの舌を満足させる料理を作っていた娘の声だ。あの声は何と云っていたのか。考え込んで、唇がほころんだ。

いつか、近くの公園にでも遊びに行きましょう。

自分はどう応えたのか。ああ、そうだ。悪くないな、と返したのだ。印象的なのはその時に見せた娘の表情。嬉しそうに笑って、わずかに頬は紅くなっていたか。

もう一度湖面を見つめる。水面はやはり静かで、わたしはひとつ、息を吐いて再び歩き出した。もう開店している頃合いだろう。心が弾み始める。

久しぶりの訪問である。だが、それほどの時間を経ていないことが、なによりも喜ばしかった。最後に食べた料理の味が、ずいぶんあざやかに舌によみがえる。

(ああ、楽しみだ)

人がすれ違う。ふと、人が多くなっている気がした。いや、気のせいではない。歩くにつれて、確かに人が増えている。何事かと思えば、それは目的地にある料理店を覗き込む人の列なのだ。戸惑っていると、店の中から現れた娘が、花のように笑いかけてきた。

「いらっしゃい、シャルマン。待ってたよ」

わたしがここにいることを知っても、驚いた様子はない。さりげない仕草でわたしの腕をとり、中に導く。ふわりと漂う、極上のスープの匂い。カウンターに腰掛けた金髪の青年が振り返り、ちらりと微笑を閃かせた。これだけ盛況なのに、隣の席だけ、空いている。

背中を押してわたしを座らせた娘は、小さな表示板を取り上げた。Reserved。ここがわたしの居場所なのだ。唇が笑む。胸に満ちる想いはくすぐったかった。

<END>

 

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