認められる条件として、資格は有効でした。 (12)

「あら。ずいぶん遅いご到着ね」

 小舟を降りて、島の中央に向かう。すると女が一人、佇んでいた。月明かりでは色彩がよくわからないが、すらりとした肢体の持ち主である。キーラは沖を見た。留まっている船から、合図の知らせはない。つまり女は船ではなく別の方法でフェッルムの島を訪れたということだ。まさに、こつぜんと。

 キーラはアレクセイと視線を交わす。マーネの件を思い出していた。

 ここは魔道が発動しにくくなる場所だが、あらかじめ道具に術をかけているのなら話は別、ということだ。
 あのとき黄衣の魔道士がペンダントに込めた転移の術で逃れたように、女もまた装身具に込められた転移の術でここに来たのだろう。女を観察する。二つの耳たぶに、首元、それから手首に、装身具をいくつもつけている。ただの装飾品ではないだろう。キーラが今、つけている腕輪が、ただの腕輪ではないように。

「お待たせして、申し訳ありません。ですが、おひとりでいらしたのですか?」

 アレクセイがやわらかな口調で、話しかける。くす、と女は笑う。

「おっしゃりたいことはわかっているわ。話が違うとおっしゃりたいのでしょう。でもね、ちゃんと彼も来ているのよ? ただ、内気だからちょっとかくれんぼしているの」
「おやおや。初めてお会いするわけでもないのですが」
「そうなの。王子様たちはあなたに会いたがっているのよ、としつこく口説いたのだけど、どうしても会いたくないんですって」
(ふうん)

 どこまで本当なのか、疑いながらキーラは辺りに気を配っていた。ぎったんぎったんにしてやるとうそぶいたものの、女の相手はアレクセイだとわかっている。キーラが気を配るべきは、それ以外の不確定要素だ。小さな島ではあるが、ささやかな緑はある。身を隠せそうな樹木もある。ハッタリと云う可能性が高いが、女の言葉も全否定できない。

「では、残念ですが交渉は決裂ですね。あの方にお会いできるからこそ、紋章を持ってきたというのに、会えないのなら意味がありません。帰らせていただきます」
「あん。やだ、待ってよ。本当に王子さまってつれないのね」

 危なげのない足取りで、女は歩み寄ってくる。ようやく顔を確認できた。やや吊り上った目が印象的な、艶めいた美貌の持ち主だ。アレクセイに指を伸ばす。そのとき、きらりと耳元の装身具がきらめいた。とっさにアレクセイの腕をつかみ、引き寄せる。
 ち、と、舌打ちが響いた。じろりと女がキーラを睨む。

「そう云えばいたんだったわね。紫衣の魔道士さまが」
「あなたから許可をいただいたからね。云っておくけど、術を使わないと王子さまを口説き落とせないなんて、妙齢の女として失格なんじゃないの?」

 わざと女の神経に触る言葉を選んでみた。先日、お嬢ちゃんと云われたことへの仕返しだが、もちろんそれだけが理由ではない。女がこちらに接近してきたときから、奇妙な違和感を覚えていたのだ。動きが無防備すぎる。それはフォローに回る相手がいるからではないだろうか。キーラの推測を証明するように、女は交渉を請け負っている立場としては無防備に、むっとわかりやすく表情を変えた。他愛なさすぎる。

「キーラ。云い過ぎですよ」

 同じことを思ったのか、アレクセイが視線で語りかけてきた。女の相手は任せろ、と云っている。しかし相手は黄衣の魔道士だ。人を操る技に長けている、と、反論したくなったが、アレクセイが気づかぬわけがない。考えがあるのだろう、と、しぶしぶ退いた。

「ありがとう、王子さま。やっぱりやさしいのね」
「最低限の礼儀としてね。ただ、術でわたしを操ろうとしても無駄ですよ。紫衣の魔道士が防いでくれますから」
「フェッルムの島に対する備えを怠らない魔道士さまね。いやみな存在だこと」
(お互いさまじゃないの)

 初めて会った時からそうだったが、なぜだか妙に敵意を向けてくる。やはりこの女は好きになれない。改めて思いながら、もう一度、ぐるりとまわりを見渡した。力の流れは、皆、足元の土に向かっている。大気の力に、不自然な動きはなく、また、装身具による力の波動もない。どうやって男を探せばいいのか。

「それで、わたしを操ってなにをしようとしたのですか」
「確かめたいことがあったのよ。紫衣の魔道士さまに邪魔されてしまったけど」
「確かめたいこと?」

 うふふ、と女は首をかしげて笑った。紋章にはね、ともったいぶるように告げる。

「ある精霊の意思が宿っているの。ルークス王家に連なる者を護ろうとする意志がね。その意思が本当に発動するか否か、確かめたかったのよ」

 足元の力に向かう力の流れが急激に増えた。はっと男の居場所に気がついて、キーラは腕輪の力を解放した。地面から、水の竜が現れる。キーラの力がアレクセイをくるむと同時に、水の竜がアレクセイを飲み込んだ。

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