ピッツァフェスト出場者の募集は、結局、七名、集まった段階で締め切られた。
それなりに名の知られているピッツァイオーロが集まっている。その七名にラウロがいる事実を、なんとなく、誇らしく感じた。出場資格のひとつに、ピッツァイオーロの推薦がある。ラウロの場合はアドリアーノじいさんだが、それでも、ラウロのピッツァが認められている事実がうれしいのだ。あのマリナーラを全面的に認められた感覚である。
ただ、出場者の経歴を見比べてみると、ラウロが焦点になりやすい立場だと気づく。
焦点、――――すなわち、賭博において穴場となりうる対象である。
今年のピッツァフェストにおいて、主だった優勝候補は辞退している。だからといって、出場が決定したピッツァイオーロたちが劣っているというわけじゃない。いわゆる、中堅どころが出場しているのだ。そしてなかでも見劣りする経歴の持ち主、もっとも賭ける対象となりにくい人物が、ラウロだった。
つまり、いかさま賭博の本命となりやすい。
「ラウロ・ブルネッティの周辺を探っておこう。胴元がいる可能性がある」
仲間の一人、同じウーノ班にいるディーノが云えば、他のメンバーもうなずく。
しかたない流れだと理解しているけれど、わたしはちょっと息苦しい心地になった。
まるでラウロが疑われているような、そんな感覚を抱いたのだ。
うつむいて沈黙している間にも、打ち合わせはさらに進む。情報収集は、警備方法は、当日の審査は。これまでマーネを護ってきた仲間なのだ、手際よく詳細が決まる。やがて役割をそれぞれ振り分けようというときになって、わたしと同じく、ずっと沈黙していたリュシーが口を開いた。
「提案があるのじゃが、わたしとカールーシャは情報収集に回してもらえぬか」
はっと顔をあげると、ちらりとわたしを見たリュシーがうなずく。仲間たちは顔を見合わせた。それはそうだろう、わたしたちは魔道士だ。サポートに回るより、魔道を活かした警備をしたほうがいい。けれど、リュシーはぴこぴこと指を揺らしながら利点を告げる。
「ラウロ・ブルネッティは我らの知人なのじゃ。だからこそ、集められる情報がある。公平を期すために、……そうじゃの、ディーノとアロルドにも協力してもらおうと思うが」
「なるほど。……ラウロ、か」
リュシーの言葉を聞いて、アロルドがつぶやけば、「ああ」と云わんばかりに他の面々がうなずいた。いっせいにわたしを眺めるものだから、首をかしげると、ぽん、と、なぜかディーノに肩を叩かれた。見上げると、生温かい微笑が目に入る。……訳が分からない。
「状況報告は、随時、欠かさぬように」
沈黙していたエットレが重々しく告げれば、にやっとリュシーが笑う。
「物見高いことじゃな。むろんじゃ。わたしにそのような手落ちがあると思うか?」
「期待しておこう」
(なんだかなー)
仲間たちに漂う空気を読み取ったわたしは、半目になって見回した。
詳細はよくわからないけれど、浮ついた気配を感じる。それに、いやな予感がしたからだ。なんというべきか、このまま放置しないで追及したほうがいい気がする。
だが、わたしの冷めた目つきに気づいたリュシーはにっこり微笑んであからさまに誤魔化した。予感は的中しているようだが、この微笑みを浮かべたリュシーから話を聞きだすのは骨だ。
(あとでアロルドあたりを締め上げてみよう)
などと考えながら、それぞれ役割ごとに分かれてさらに打ち合わせる。わたしたちが収集しなければならない情報は、出場者にまつわる情報だけではない。出場を辞退した優勝候補者たちにもあたって、いかさま賭博の胴元を探り出さなければならないのだ。
さいわいにも、有益な情報源となりそうな人物がいる。
昨年のピッツァフェストに優勝した、カットゥロ・アッバティーニもまた、今年のピッツァフェストへの出場を辞退した人物だった。