型通りの発展

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「……甜菜糖の製法を共有しろ、ですか」
「ハーグレイブ伯爵領だけではありません。他にも、クロムウェル伯爵領、ブラックストーン伯爵領からも、同じ内容で書簡が届いております」
「『貴公爵家が発見した新たな甘味料は、民の暮らしを豊かにする可能性を秘めております。高貴なる方々には、その恩恵を広く行き渡らせる責務があるのではないでしょうか』……完璧な論理展開ですね。もっとも、図々しいという印象が拭えませんが」
「そうなんですよねえ。僕たちが甜菜を増産したときは鼻で笑う感じだったのに、甜菜糖が製造可能になったとたん、手のひらくるくるなんですから~」

 ま、それもしょうがない。

 そもそも甜菜を増産した理由は、幼いあたしに食べさせるため、というじじバカな理由だったんだ。そりゃ大抵の大人は、鼻で笑うだろうよ。それが思いがけない特産物を産み出したら態度を改めるのも、ま、ありっちゃあり。人間ってそういうもんだしね。

 だからといって、相手の言い分をそのまま聞いていいかと言えば、別問題。

 だってさ、この甜菜糖、生み出すためにどんだけの労力がかかった?
 幼かったあたしが、成人するまでの時間がかかってるんだよ。それなのに、公爵家という最上位の家柄が生み出した特産物だからという理由で、製法を共有財産にしようなんて、開発に携わってくれた人たちの労力を軽んじているようで、あたしは好きじゃない。

 ただ。

「……甜菜糖の製法だけど、気づく人はいずれ気づくと思うのよ。わたくしたちがわざわざ広めなくてもね」

 甜菜糖の作り方は、ちょっとばかり手間がかかる。
 でも単純なのだ。
 甜菜から糖分を取り出し、それを煮詰めて結晶化させる。
 問題は、その過程にある。

 そうして出来上がった甜菜糖は、砂糖のように真っ白ではないし味にも癖もあるけれど、その癖をうまく活かせば、今回のパウンドケーキのように美味しく活用できる。

 あたしの言葉を聞いたローレンスは、表情を引き締める。

「では、このまま、彼らの訴えを放置しますか?」

 あたしは静かに首を振った。

「いいえ。だからこそ、今、甜菜糖の製法は取引材料になる。……この甜菜糖の製法を王家に届け出て、特定の家が独占できないようにしましょう。ただし、製法の研究に費やした期間と同じだけの期間を、アシュベリー公爵家へ相応の対価を支払っていただきます」

 このとき、あたしが参考にしたシステムは、地球世界の特許制度だ。
 詳しいことは覚えていない。たしか中世ヨーロッパから制度自体はあったはずだ。

 発明した人間に一定期間の権利を認めて、その後は広く公開する。
 そんな仕組みだったと思う。

 あたしの言葉を聞いたジョシュアは、ポンと拍子を打った。

「そういえば、隣国にそういう法律が制定されたそうですね~」

 あたしは苦笑した。

 そういえばそうだった。
 王妃教育で外交を学んでいたときに、教師の小話として聞いた記憶があったわ。
 隣国ってことは例の皇帝が制定したのよね。なかなかやるなと思った記憶もある。

「なるほど。王家に管理させることで、公爵家への不満も抑えられますか」

 ローレンスに納得したように言い、あたしはうなずいた。
 レイモンドが思わしげにあたしを見た。

「ですが王家に届け出るとなると、……セラフィーナ様がお動きになるのですか」

 レイモンドがそう言って、あたしを気遣ってくれたことを、嬉しく思う。
 だからあたしはわざとらしくにっこりと笑って「なにを言ってるの?」と告げた。

「こんなこと、領主代行のわたくしがする仕事ではないでしょう。現領主であるアシュベリー公爵か、セドリック公子にお願いするに決まってるじゃない」

 あたしがそう言うと、三人は複雑そうな表情で顔を見合わせた。
 あれ、意外?

 でもあたしとしては自然な提案なんだけどなー。
 第一希望はセドリックね。あの子の求心力が下がるのは望ましいことではないから、あの子に動いてほしい。

「……お二人に、功績をお譲りになるとおっしゃる?」
「なにを言ってるの、ローレンス。甜菜糖の製法を編み出したのは、わたくしではないわ。このアシュベリー公爵領の研究者たちです。だからこそ、その代理に立つ人物は、しっかりとした人物でなければならないわ。――王太子殿下に追放されたわたくしではなく、ね」

 間違えないでほしい。
 甜菜糖を生み出したのはあたしじゃないんだ。

 そりゃ、たしかに幼いセラフィーナが甜菜を美味しいと言ったことがきっかけではあるよ。
 でもさ、ちがうでしょ? 

 増産した甜菜の使い道を考えて、研究して、甜菜糖という新たな産物を生み出したのは、あたしと同じ、物語の主役じゃない人たちでしょ?

 やっぱりさー、元モブ野モブ子としては、お仲間の功績を奪うなんてしたくないのよ。

 あたしがにっこり微笑んだままでいると、三人のため息が見事に重なった。

(あれ?)

「――まあ、セラフィーナ様がそうおっしゃるなら、やぶさかではありませんが」

 と、ローレンスが言い。

「たしかに研究者たちの功績を本当に守ろうとするなら、公爵様かセドリック公子にお願いするのが一番ですからねえ~。納得は難しいですが~」

 と、ジョシュアが言い。

「やっぱりセラフィーナ様は度を越したお人好しですよ」

 と、レイモンドが言った。

(……腑に落ちない)

 三人の言葉にしっくりこない。
 特にレイモンド、この流れで言う言葉がなんでそれ!?

 あたしは憮然と唇を結んだんだけど、結局、三人は三人で話し合いをさくさく進めて、アシュベリー公爵に報告して、王家に届出を出す、という結論に落ち着いた。

 だれが届出を出すか、というところは、公爵に判断を委ねるんだって。

 だったらさ、もっと気持ちよく、あたしの提案にうなずいてくれてもよかったんじゃと思ってしまうのは人として自然な感情だよね?

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