ドラッグ
思いがけず手に入ったものを手に持ち、ふふっと笑ってしまった。
「いいモノがあるんだけどな?」
ボソリと明るく告げてみたところ、相手はピクリと反応したから笑い出したくなってしまう。ふだん、理性的に振る舞っていても、生き物である以上、勝てないものもある。この子にとって、わたしが今、手に持っている粉がそうだ。この粉の、わずか耳掻きほどの量でも、この子は意識をむけてしまう。この粉がもたらす快を、すでに知っているからだ。
「試したくならない?」
プラプラと右手で揺らしてみれば、視線が左右に揺れる。
でも何も言わない。
まったく素直じゃないんだから、とほくそ笑みながら、パチンと蓋をあけた。
馬鹿な子だ。それだけでもう、視線を離せなくなっている。
「欲しいなら、それなりな態度があると思うんだけどな~」
しつこくねちっこく(?)態度の改善を求めたところ。
ああ、やっぱりこの子はお馬鹿なのだ。むう、と唇を結んで、ぷいとわたしから顔を背けた。
生き物として、誘惑と闘っている。
でもわたしのほうがもう、耐え切れないんだ。
あげてしまいたい。だってこの粉はそのためにもらってきたもの。
喜んで欲しいんだ。かわいいこの子に。
「メリークリスマス、だよ」
そう言いながらわたしは掌にまたたびの粉を落とし、ウズウズと落ち着かない態度の愛猫に差し出した。
039:ドラッグ▼
(現代もの。またたびを持つ飼い主と猫)
なんじゃこりゃああと言われるかもしれませんが、ドラッグというお題から思いついたお話がこちらでした。いろいろ連想してみたんですよ。ドラッグ、管理できないもの、すべきではないもの、毒と薬は表裏一体、とか、いろいろ。ただ、本当に追求して行ったら、どうしようもなくドツボにハマる予感がして、このお話になりました。難しいお題でございました~。
2019/12/24