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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

ドラッグ

思いがけず手に入ったものを手に持ち、ふふっと笑ってしまった。

「いいモノがあるんだけどな?」

ボソリと明るく告げてみたところ、相手はピクリと反応したから笑い出したくなってしまう。ふだん、理性的に振る舞っていても、生き物である以上、勝てないものもある。この子にとって、わたしが今、手に持っている粉がそうだ。この粉の、わずか耳掻きほどの量でも、この子は意識をむけてしまう。この粉がもたらす快を、すでに知っているからだ。

「試したくならない?」

プラプラと右手で揺らしてみれば、視線が左右に揺れる。
でも何も言わない。
まったく素直じゃないんだから、とほくそ笑みながら、パチンと蓋をあけた。
馬鹿な子だ。それだけでもう、視線を離せなくなっている。

「欲しいなら、それなりな態度があると思うんだけどな~」

しつこくねちっこく(?)態度の改善を求めたところ。
ああ、やっぱりこの子はお馬鹿なのだ。むう、と唇を結んで、ぷいとわたしから顔を背けた。
生き物として、誘惑と闘っている。

でもわたしのほうがもう、耐え切れないんだ。
あげてしまいたい。だってこの粉はそのためにもらってきたもの。
喜んで欲しいんだ。かわいいこの子に。

「メリークリスマス、だよ」

そう言いながらわたしは掌にまたたびの粉を落とし、ウズウズと落ち着かない態度の愛猫に差し出した。

039:ドラッグ▼
(現代もの。またたびを持つ飼い主と猫)

なんじゃこりゃああと言われるかもしれませんが、ドラッグというお題から思いついたお話がこちらでした。いろいろ連想してみたんですよ。ドラッグ、管理できないもの、すべきではないもの、毒と薬は表裏一体、とか、いろいろ。ただ、本当に追求して行ったら、どうしようもなくドツボにハマる予感がして、このお話になりました。難しいお題でございました~。

2019/12/24

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