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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

宝箱集配人は忙しい。

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「これからどう動くつもりじゃ?」

 今度こそ副ギルド長が沈黙すると、代わりにギルド長が口を開いた。

 僕はほほ笑んだ。

「とりあえず、お世話になった友人にはお礼をするものでしょう。これから夕食に誘うつもりです。探りの気配に敏感そうな相手ですから、いきなり本題には入れないでしょうね。それでも交流を続ける意味はあると思いますから」

 ふむ、と相槌を打ったギルド長は、あごを軽く撫でた。

「わしも行こうかのう」

 副ギルド長はギロリとギルド長を見下ろし、僕はすんっと真顔になった。

「ダメです」
「邪魔です」
「……ひどくないかの、おまえさんたち……」

 ダメージを受けた、というより、拗ねた様子でギルド長はぼやいた。

 僕は軽く肩をすくめる。だって、事実、邪魔だ。僕は貴公子を友人だと思っているけれど、同時に、旅の目的やその正体といった情報を探らなければならない相手だとも思っている。そして貴公子は見た目以上に警戒心の強い相手だとも思っている。

 だからこそ、不自然な行動はしたくない。

 いくら僕の後見人だからといって、冒険者ギルドのギルド長という、この街の重鎮を、大した用事がないにもかかわらず、旅人に会わせるなんて、不自然この上ないだろう。

 副ギルド長も、そのあたりを考えて、反対したんだと思う。

(まあ、ギルド長の安全を優先したいという理由もあるだろうけど)

 ギルド長に向かって、細々とした説教をしている副ギルド長を、チラリとみた。ギルド長を本当に尊敬していて、心配もしているだろうに、素直じゃないんだよなこの人は。

 もっともそんな副ギルド長の在り方に、僕はどうこう言える筋じゃない。それに、そっぽを向いて口笛を吹き出しそうなギルド長を眺めていると、このくらい口うるさい人が傍にいないとあかんよなあ、という気持ちにもなってくるんだ。

 だから僕が退出のために一礼すると、諦めた様子のギルド長が軽く手を振った。

 副ギルド長も説教を一時中断して、しかたないと言いたげに僕を見送ってくれた。

 そうして僕は冒険者ギルドを出て、貴公子がいるだろう宿屋に向かったんだ。

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