宝箱集配人は忙しい
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僕たち宝箱管理室の人間が、迷宮の管理者たるドラゴンに会いに行くときは、ドラゴンに与えられた特殊な術式を使う。
いわゆる、先触れの術式だ。
宿屋から冒険者ギルドに戻った僕は、だれもいない宝箱管理室でその術式を使った。あなたの創造主が魔王だった、詳しく報告したいからいまから訪れてもいいか、というメッセージを送ったのだ。
じきにドラゴンから返信の術式が届く。
いまからでは差し障りがあるため、明日、仲間とともに訪れよ。
いつものように思念で届いた内容に、僕はこっそり首を傾げた。
おかしな内容だと思ったんだ。ただ、すでに深夜になっていたから、あのドラゴンは夜を徹しようとする僕を気遣ってくれたのかもしれない、と考えた。
「奇妙な術式を行使しているな」
「ぶしつけですね」
管理室の扉が開いて、魔法使いが話しかけてきた。
僕はこめかみに触れていた手を離して、話しかけてきた魔法使いに応える。ゆっくりと振り返れば、勇者一行がそろっていた。
あの宿屋から神殿へと帰還したはずの勇者一行が、いま、この僕以外のメンバーがいない宝箱管理室に現れた理由はなんだろう。
そんなことを考えた僕は、ふ、と自嘲の微笑みを浮かべた。
そんなもの、決まっている。
「神殿長があなたをお呼びです。魔王について詳しくお話を聞きたいと」
緊張した面差しで進み出た女神官が口を開く。
やっぱりか。
魔法使いと剣士はあからさまに僕を警戒しているが、勇者は沈痛な面持ちで黙り込んでいる。あのとき、勇者は僕を拘束するつもりはないと言ってくれたが、あの神殿が勇者の取りなしで大人しくするはずがないんだよなあ。だから僕は、浮かべていた微笑みを苦笑に変えて、「かしこまりました」と応える。
「拒む理由はありませんね。ただ、僕にも予定があるため、長居はできませんが」
「長居になるかどうかは、おまえ次第だろうな」
「そうですね。ちなみに宿屋のみなさんも?」
「神殿長がお呼びになっているかたは、あなただけです」
女神官の言葉を聞いて、僕は安心した。
そのまま勇者一行の元へ進み出たとき、再び魔法使いが口を開く。
「宝箱管理室、か。さきほどの術式といい、隠し持ってる情報は多そうだ」
「ルーカス」
勇者が咎めるように魔法使いを呼んだが、魔法使いの冷ややかな表情は揺らがない。僕はゆっくりと魔法使いを見返して、そして笑った。
「僕らの機密事項が、魔王と関わりのあるものだと考えているのなら、今回の呼び出しで聞き出せると本当にお考えなら、思い違いもはなはだしいですね」
「室長さん」
勇者は次に、困ったように僕を呼ぶ。
魔法使いの眼差しは鋭くなり、僕は軽く肩をすくめた。
だってそうだろう。
あの貴公子、魔王とのつながりはあくまでも僕個人のもの。僕自身に詰問するついでに、冒険者ギルドの機密事項を探り出そうと考えるなんて、欲張りすぎだ。
(さて、)
あの神殿はドラゴンとの約束の時間までに、僕を帰らせてくれるだろうか。
