宝箱集配人は忙しい。
第66話
ドラゴンは、これまで何度も、迷宮の最下層で向き合い続けてきた相手だ。
その攻撃の癖は、まだいまの段階では、正確に読むことができる。
翼を一度だけ震わせれば、高速の風刃がくる。爪を軽く地面にタップしたら、尾の横なぎがくる。首がわずかにのけぞれば、炎の玉を吐く、といった具合に。
だが、僕がそうやって癖を読んでいることに、ドラゴンも気づいているようだ。
るるる、と楽しそうな鳴き声が伸びやかに響く。
『ほほほ。これまでの習練は無駄ではなかったようじゃな』
「当然です」
飛んできた炎の玉を薙ぎ払いながら、僕も言い返す。
「無駄にはさせませんよ、あなたとのやりとりはすべて。絶対にね」
紫色の瞳が細められた。
ドラゴンの尾が空気を裂き、石畳が砕け散る。
その軌跡を読んでいた僕は、一歩も迷わず前へ跳んだ。
風がかすめる。次の瞬間、秘書どのの刃が走り、ほんの一瞬だけ隙が生まれる。ミーナの強化術式が僕の身体を包み、また、後ろでカイルが衝撃を受け止める音がした。
『ならば』
次の瞬間、白銀の巨体が跳躍する。
大気が震え、世界がかき消えるほどの光をまとって。
(来る——)
読めない。
今まで一度も見せなかった動きだ。おそらくただ一度の、ドラゴンの本気だ。
「光陣——第三層、展開!」
部下の術式が爆ぜ、神殿の石畳に幾重もの光紋が走る。
炎の息が降り注ぎ、光がそれを押し返す。
光と炎が拮抗し、空の色がねじれていく。
「援護は任せてください!」
部下の声が混じる。
疾風の刃が放たれ、炎を断ち、音のない真空が生まれた。
その裂け目を抜けて、僕は駆け出す。
部下たちの力が、まるでこの背中を押すようだった。
宝箱管理室の室長として、僕は彼らの戦闘力を冷静に計り、確実な歩幅で育ててきたつもりだったけれど。
けれど、彼らはもう、僕の予想の先にいる。
(僕はまだまだだ、それでも)
この刃は、あなたに届かせてみせる。
白銀の爪が迫る。僕の刃が交差する。
刹那、光がはじけ、世界が白く染まった。
ほとんど同時に、僕たちの呼吸が重なる。
『……見事』
その一言が、風より静かに、この胸に届いた。
僕は一瞬だけ瞳を閉じ、双刀の構えをゆっくりと解いた。
