24時間、料理の注文承ります。【WEB版】– category –
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24時間、料理の注文承ります。【WEB版】
終、または始。いま、ここにある刹那の永遠。
(まだ、開いていない) 店の前まで歩み寄って、どことなくそわそわする心地で呟いた。慣れない格好ではなく、結局いつもの格好で訪れることにした。扉の向こうに人影が見える。時計を確認した。間もなくの開店となるだろう、それまで時間をつぶすとするか... -
24時間、料理の注文承ります。【WEB版】
10・ありがとう、またね。
夢を見ている。その自覚が、あった。 なぜならいま、目の前に立っているひとはすでにこの世にはいないひとだからだ。こちらに背中を向けて、料理に没頭している。色が抜けて白くなってしまった髪を結いあげて、年をとってもぴんと延びた背筋は老いを寄せ付... -
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9・あなたにあげる、この心。
「異なる世界といえど、意思疎通が可能となるのは理解し合える言葉が存在する以上に、よく似た生活を送っているからです」 それがシャルマンが呼び寄せた料理人の第一声だった。 修業期間はわずか六日間だ。少ない日数だから初日から料理に向かうのだと思... -
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喪失は喪失ではなくて、彼女のかけらはここにある。
ひどい顔つきをしていた娘が、いつもの表情を取り戻してアヴァロンを出ていった。母親の云う通りに夜に備えるのだろう。 素直な娘だ、と苦笑交じりの思考で呟く。だからこそ他人の思考に流されやすいが、その特徴は他人の助力を引き出す効果ももたらしてい... -
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8・なにやってんですか。
とっさに行動することが出来なかった。 口をぱかんと開けて、なにかを云おうと思ったのだ。でも久しぶりに見る東條さんは相変わらず穏やかな雰囲気で、まるきり変わった様子がない。その様子を眺めていると、驚いている自分がおかしいのだと錯覚してしまい... -
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7・むちゃぶりという言葉を教えてあげよう。
どういう現象ですかこれ。 わたしはいま、無性に問いつめたい衝動にかられている。もちろん対象は、あの、黒髪の貴公子さまだ。いつもいつも無茶振りしてくれてからに、と胸元をひっつかんでガシガシ揺さぶりたい。でもできない。 「お嬢ちゃーん、こちら... -
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ようやく自分の感情に気づいても喪失を愛しむしかない。
覚醒は緩やかなものだった。ふうっと押しやられるように、まぶたをゆっくりを開ける。分厚いカーテンの間から、光が差し込んでいる。まだ陽は落ちていない証拠だ。唇は自然な微笑みを浮かべていた。夢見がよかったからだろう。懐かしい女が登場した。 (-... -
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6・正論からトンズラ
忘れてました。そろそろ母さんがこちらに来るって。 たらりと冷や汗がこめかみを流れ落ちる。ぎらりと腰に手を当てて睨んできた母さんは、ところどころ金の筋が混じる茶色の髪と、黒い瞳をしている。祖父から受け継いだものだ。幼い頃は祖母の髪に憧れたこ... -
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5・いきなりそうきますか!?
そろそろ使い慣れた感のあるアヴァロンの台所で、わたしはちょこちょこと動いていた。 自分のための料理をしていても、外から覗き込む人には、食堂の準備をしていると思われるだろうから、だから少しだけ、この場所で調理することには抵抗がある。でも、し...
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