(それ、悪役令嬢やない、ヒロインや)

 あたしは思わず、心の中でつっこんでいた。
 目の前で大好きな物語について語る友人は、あたしが引いていることに気づかない。

 むかしから読書好きという共通項のあるこの友人は、しばらく会わないうちに、いわゆる悪役令嬢転生ものというジャンルにはまりこんでいた。
 そしていま、その悪役令嬢転生ものが描かれてる本を差し出しながら、熱く語っている。

 相手の熱量が高いほど、引いてしまう理由は、あたしが素直じゃないからだろうか。

 だってさ、その物語のあらすじを聞いてるだけなんだけど、思っちゃうんだよ。

 乙女ゲーム世界に転生した主人公が、破滅を回避しながら運命を変えていく。

 それ、もう悪役令嬢じゃないことない?
 完全に、不遇な立場から自分の運命を切り開くヒロインじゃない?
 つまり、由緒正しい王道の物語なんじゃない?

 と、心の中で怒涛のツッコミをしているわけなんだけど、長年の友情がなせる技、あたしはその想いを表情に出さないように気をつけていた。

 いや、誰だってこの場合は、そうするよね。

 だって悪役令嬢転生ものってジャンルは流行しているジャンルらしいし、そのジャンルの良さがわからない、という少数派っぽい真実を、初っ端からあらわにしないでしょう。

 だから、あたしは、いかにも興味が惹かれた様子を装いながら、友人が差し出した本を手に取った。

 重っ。

 もともと物語に没頭することが好きな子なんだ、だから世界観も登場人物の設定も、しっかり作り込まれた物語なんだろうと思う。あたしでもしっかり楽しめる物語なんだろう、とも思った。

 そうして読み始めた物語は、確かに面白かった。

 主人公が愛する家族のために、自分の行動を改めながら、幼馴染でもあり将来自分を破滅させるだろう王子との愛を育んでいくところなんて、思わずハラハラした。破滅的な未来を回避するために、懸命に努力して、それでも物語の展開通りに現れたヒロインと、そのヒロインに魅了された幼馴染たちに、公開の場で糾弾されるところなんてさ。

 サイッコーに胸が痛むよね。なにせ、自分ごとだ。

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