型通りの断罪
2
さて、これからどうしよう。
公爵邸に向かう馬車の中で、あたしは考えていた。
これまでの十六年間の人生において、あたしを翻弄してきた断片的な記憶のすべてを、完全に統合させたあたしは、すっきりクリアな感覚になっている。
あたしは乙女ゲーム世界の悪役令嬢として生まれたわけじゃなかった。
あたしは、悪役令嬢転生ものの主人公として生まれていたんだ。
そして、これからの展開は、頭に入っている。
あの友人が貸してくれた悪役令嬢転生ものの物語は、序盤において、徹底的に主人公、すなわち、あたしを追い落とす流れになる。
つまり父は、あたしに修道院行きを命じる。
もちろん親子としての縁を切ってね。
そして、本来の悪役令嬢なら、そこで覚醒するのだ。
損得勘定でしか動かない父に交渉して、修道院ではなく領地へ移り住み、前世知識で領地を改革する。同時に、己にかけられた冤罪がヒロインによって企てられたものだという証拠を集めて、身の潔白を証明する。
最終的には、隣国の皇帝に見初められ、隣国の皇妃になるという流れだ。ちなみにその頃には、アルベルトたちもきっちり転落していく。
うん、まさに悪役令嬢転生もののお約束ってやつだね。
……いや、しんどくない?
あたし、そこまでアグレッシブに動くつもり、ないんですけど。
なんてったって、失恋しちゃったわけですしさ。
いいじゃん、修道院。慎ましく清らかな身で一生を終えるというのも、ありっちゃあり。
なにせセラフィーナとして奉仕してきた経験で、この世界の修道院ってやつは、気楽に過ごせる場所だって知ってるからね。
それに、あたしが持つ前世知識で、領地改革が本当にできるのかと言えば、疑問だ。
そもそもなあ、あの父に交渉して、領地に移り住むというのも、しんどい。
いや、愛していますよ家族として。
父も母も、大切な家族として愛していましたさ。
でもねえ、それって貴族だからなのよね。
言い換えるなら、貴族令嬢として次期王妃として優秀だから大切にされていた、だけなんだけど、それを両親からの愛情だと思い込んでたんだよね、あたしは。
モブ野モブ子としては、両親からの愛情なんて信じられん。
なにせ、あの物語では、王太子から婚約破棄されたことによって、父から縁を切られそうになるし母からは泣きながら責められるわけだし。
その展開はこれから、たしかな現実としてあたしの身にふりかかってくるわけだ。
(憂鬱だわあ)
公爵邸に向かう馬車の中で、あたしは一人だったから、思いきり息を吐いた。
それでも現実は動き出している。
あたしはもう、悪役令嬢セラフィーナじゃなく、あたしとして目を覚ましてしまった。
なぜ、あの断罪の場であたしは記憶を取り戻したんだろう、という疑問はあるけれど、それは考えてもしかたない。あたしはすでにあたし、モブ野モブ子なんだ。
――いつまで、そのネタみたいな名前を引っ張るのかって?
それは許してほしい。なぜならあたしは、前世の記憶を取り戻したと言っても、個人情報まで取り戻したわけじゃないからだ。
前世のあたしは、現代日本でこの物語を読んでいた。だから悪役令嬢セラフィーナとしての正解はわかる。けれど、肝心のあたし自身のことは、ほとんど思い出せない。
名前も、職業も、あたしを愛してくれただろう家族についても思い出せない。
ただ、二十三歳になるまで生きた、という確信が、ドーンと居座ってる。若くして亡くなったんだから、周囲の人間を悲しませたんだろうな、って、思うよ。でもその肝心要の周囲の人だって、本を貸してくれた友人以外を思い出せないんだから、実感が薄い。
だから、あたしの考えは冒頭に戻るわけだ。
さて、これからどうしよう、ってね。
