型通りの発展
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屋敷の料理長曰く。
「幼いころのセラフィーナ様は、それはもう、かわいらしかった。本当にかわいらしく、屋敷のみながメロメロでございました。大旦那様も大奥様も、目に入れても痛くないという有様でございました……」
まあ、今、最高の美少女に育ってるんだから、推して知るべしってやつだ。
そんなセラフィーナには子どものころ、苦手だった食材がある。
ええ、当時のあたしは、中身も味覚も普通の子どもでしたからね、苦手な食材のひとつやふたつ、あるってもんだ。
その食材のひとつが、ほうれん草。
現代日本でも苦手とする子どもが多いアレだ。
で、そんなセラフィーナにほうれん草を食べさせようと苦心していた料理長が、うっかり、ほうれん草と甜菜を間違えて茹でたところ、セラフィーナが喜んで食べたという。
曰く、「特別なほうれん草なのね。いつもより甘くて美味しいわ!」と。
うん、それ、ほうれん草じゃなくて甜菜だからね。甘くて当然だよね。
かくして甜菜は、大旦那様(お祖父様ね)の言いつけにより、多く栽培されるようになり、そしてセラフィーナが王妃教育のために領地に行かなくなってからは、増えすぎた甜菜を活用する方法が研究され、そうして新たな甘味料として生まれ変わったのだという。
いや、こえーよ!
なんでそこまでじじバカなんだよ。
なんで領民、甜菜を素直に増産するんだよ。
おまけに歳月を経て、きっちり伏線を回収できてるところが、最高にこえええ。
パウンドケーキを噛み締めながら、いろいろおののいてるとレイモンドが言った。
「というわけで、このパウンドケーキはセラフィーナ様のおかげで完成度が上がったわけです。ですから名前をセラフィーナ様にあやかって」
「やめい。いろんな意味で痛々しいから、やめい」
「そうですか。では『セラフィーナ風パウンドケーキ』は却下ですね」
「風ってなんだ風って」
「『慈愛の公爵令嬢ケーキ』」
「埋めるぞ」
あたしがどすの利いた声で言ったとき、扉が三度叩かれた。
あたしはしゅぴんと令嬢モードに切り替え、レイモンドが扉に向かう。あたしの様子をひと目確認したレイモンドが扉を開けると、ローレンスとジョシュアが入室して頭を下げた。
「お休みのところ、申し訳ありません。セラフィーナ様」
「いいのよ。そろそろ仕事に戻らなければ、と思っていたところだから。……なにかあったのかしら」
まあ、なにかがあったから、ジョシュアはともかくローレンスが来たんだろう。
この時期、物語ではなにがあったっけなあと記憶を探りながら、あたしは執務机から立ち上がり、窓際に設けられた応接用のソファへ向かった。
ローレンスとジョシュアにソファを勧めて、あたしも向かいに腰を下ろした。レイモンドが本当に手際良く動いて、二人にあたし命名ダージリンティーを提供する。
「少々、困ったことが起きました」
ローレンスが話を切り出し、その眼差しを受けて頷いたジョシュアが持っていた書類を、あたしたちの真ん中にあるテーブルに置く。
あたしは目を細めて、その書類を取り上げた。
書類というか、封書だね。隣にあるハーグレイブ伯爵領の封蝋が捺されている。
もっともその封は切られていて、あたしは手間なくその書簡を読むことができた。
(なるほどねえ)
あたしはそのまま、斜め後方に控えていたレイモンドへ書簡を差し出した。
レイモンドもその書簡をサラッと読んでから、顔をしかめる。
