構成された魔道が拡散されていく。一瞬だけの浮遊感覚が抜け切れない瞬間だった。

「、キーラっ!」

 メグからの警告に、先に身体が動いていた。大気の力を集め、こちらにやってくる魔道へとぶつける。音もなく、だが、衝撃は残して、魔道は散った。ほう、と息をつく。

 まったく物騒だ、と考えた次の瞬間、キーラは鋭く息を呑んだ。

「じいさまっ」

 厳つい身体つきの精霊を相手にしているギルド長の背中が、目に入ったのだ。どうやら今の魔道は、ギルド長への攻撃が外れてこちらにやってきたものらしい。転移魔道によって現れたキーラたちを見て、精霊はひとたび、攻撃の手を止めた。

 転移した先は、丸い天井におおわれた、銀色の部屋だった。珍しい、とキーラは感じた。天空要塞は石ではなく、金属で構成されているようだ。どれだけの労力を使って作り上げたのかしら、という疑問を抱きながら、ギルド長越しに、動揺した様子の精霊を見る。

 ギルド長に攻撃を仕掛けていた精霊は、たった一名。だが、まわりには幾人かの精霊たちが倒れている。死んではいない、気を失っているだけだ。閉ざされた大きな扉を半円状に囲むかのように倒れている。まるで気を失う寸前まで、扉を守ろうとしたかのように。

 いや、それが事実だろう。よくよく目を凝らせば、技巧的に優れた結界が盾のように、扉をおおっている。強固な結界は、以前に見た記憶がある。里長が交信室に入っていたときだ。精霊と結界をどうにかしなくちゃ、と考えたとき、前に進むロジオンに気づいた。

 魔道能力もないくせに、ロジオンはずいと進んでギルド長の前に立つ。あわててキーラも進んで、ギルド長をのぞきこんだ。「来たか、キーラ」、にやりと笑ったギルド長に外傷はない。だが張りつめた気が緩んだためだろうか、崩れ落ちるように片膝をついた。どのくらいの時間かわからないが、一人で戦っていたのだ。さすがに憔悴した様子である。

「じいさま……」
「どいてくださいませ」

 メグがキーラを押しのけて、ギルド長に癒しの魔道をかけるために詠唱を唱え始める。ロジオンが精霊に相対したまま、ギルド長に語りかけた。

「ありがとうございます。約束通りみなにトドメをささないでいてくださったのですね」
「ただ、先送りにしているだけじゃがの」

 わずかにロジオンの肩が揺れた。「スィン」、と一人残った精霊が呼びかけてきた。ロジオンよりもキーラよりも若い精霊だ。キーラには覚えがないが、ロジオンは短く応える。

「バオ」
「おまえは、おれたちの敵に回るつもりか」
「そのつもりはないよ。ただ、わたしは」
「ただもなにも、あるものか!」

 そう叫ぶなり、バオと呼ばれた精霊は空に文様を描き、魔道を組み立てる。だが、同時に、キーラも動いた。力を集め、バオの魔道を防ぐ盾を作り、ロジオンの前に発動させた。

「バオ、やめろ!」
「うるさい、この裏切り者!」

 ロジオンが制止したが、バオは完全に我を忘れた様子で、次々と攻撃魔道の文様を描いた。ありがたいことに、長ほど技巧的な文様ではない。キーラは精霊がつむぐ魔道をすべて無力化させたが、鋭く舌打ちした。バオの魔道は、ひたすら数で押して攻めているだけである。だから面倒で、おまけに、きりがない。時間が迫っているのに、と苛立っていると、ギルド長がささやく。

「キーラよ。ロジオンが精霊を説得し終えるまで待つつもりかの?」
「いまは攻撃を防ぐしかないじゃないっ。たしかに時間があまりないけど」
「あまり、ではない。いま、天空要塞が動きを止めている理由は、すでに王都が、天空要塞の攻撃範囲に入っているからじゃぞ。暗闇の魔道が消えた瞬間に、攻撃を仕掛けるつもりなのじゃ。だれの目にもわかりやすく鉄槌を下すべきだ、という考えに基づいてな」

 うわあ、いやな思考。顔をこわばらせて、ギルド長を振り返る。メグに支えられながら、ギルド長は立ち上がり、苦い顔つきで扉を睨んでいる。

「なんでそんなことを知っているのよ、じいさま」
「そこの青臭い精霊が教えてくれた。じゃから諦めろとな。親切なことじゃろ?」
「そういうの、親切って云わない!」

 だとしたらなおさら、悠長に、ロジオンの説得を待っている時間はないわけだ。キーラは魔道をふるいながら、ずい、とさらに前に進んだ。バオがキーラに攻撃を集中させる。

 ありがとう、と、キーラはつぶやいた。おかげさまで、だれも守る必要がない。ずいぶん楽になった、と考えれば、ロジオンの声が響いた。

「待ってくれ、キーラ」
「聞けないわよ。状況、わかってるでしょ?」