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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

もしや。

未明、3時。

体をモミモミする感触で、目が覚めました。半分ねぼけながら目を開けると、飼っている猫・ひめがモミモミとわたしの体の上で足踏みをしていたんです。

あれえ、と思いました。

なぜかというと、寝ている間にひめがわたしを起こすことはほとんどないからです。ひめが起きていることはあります。でもそういう時、たいてい、わたしの足元で丸まってるのです。つまり、こんなふうに積極的にわたしに働きかけることは、これまでになかったのですよ。

用事があるのかな。お腹が空いたのかな。そう考えました。

でもまた戻らなくちゃ、と考えて、目を閉じたのですけれど、ひめの動きは止まりません。モミモミモミ。猫が飼い主の体のやわらかいところを狙ってモミモミする理由は、甘えているからだと言われています。そんな一般知識を思い出したところで、わたしは覚醒しました。

う、わー。

はっきり覚醒したことによって、事態が解りました。わたし、悪夢を見ていたのです。それもホラー系ではなくて、しがらみ系。だから目が覚めた時に「夢の世界に戻らなくちゃ」と考えたんですね。細かいところはこの時点でも忘れていましたが、縁がほとんど切れている親戚との、気まずいやり取りをぼんやりと覚えています。ええ、もちろん夢の中の出来事なんですけれど。

もしやわたし、うなされていた?

それで心配したひめが起こしてくれた? ありえないようで、あり得るような気がします。以前、霊能者さんに教えていただいたことなんですけれど、ひめってわたしのことを「生きることが下手な動物だなあ」と考えてるんですって。正確には「狩りが下手な生き物だ」と捉えているらしいのですけれど、とにかく心配をかけていることには違いない。だからこの時もひめに心配をかけたのかなあ、と考えました。もしかしたら本当に、うなされていたのかもしれません。わたし、寝言も激しいですからね。

だからひめの頭に手を伸ばして、なでこなでこしたところ、モミモミは終わりました。

甘えてたんじゃなくて、起こそうとしていたの? わからないけれど、もう、くっきりはっきり目が覚めました。ひめはわたしの二の腕にできたスペースに丸まり、ぺろぺろとわたしの腕を舐めています。

心配かけたのかなあ。どうなのかなあ。

こういう時、ドリトル先生の能力が羨ましくなります。でもドリトル先生、長い期間、猫を飼おうとしなかったのよね。猫はちょっと扱いが難しいからという理由。例外は月から連れて帰ってきた月の猫。月に住んでいた猫は冒険心を発揮して、ドリトル先生に地球まで連れてきてもらったんです。その心に免じて、月の猫はドリトルファミリーになったんだよなあ、と思い出しながら、再び眠りました。

いつもの時間に目を覚まして、動きはじめながら、すました顔で朝ごはんを食べてるひめを見ました。

わたしはうなされていたの? ひめは心配してくれたの?

真実は分かりません。でも不思議に温かい気持ちになりながら、いつもの1日をはじめたのでした。

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