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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

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新たな趣味。

ひろしま美術館に行ってきました。

少し前まで、興味がなかった美術館。でも今年になってから、展示が変わるたびに出かけています。併設されてるレストランで期間限定メニューを食べる喜びもありますが、やっぱり美術品そのものが魅力的だからでしょう。

わたしはこれまで縁遠かった世界を知ることに、面白さを感じているのでした。

目次

今回は、「THE 新版画展」に行ってきました。

今回、わたしが鑑賞した美術品は、新版画です。

実は今回、初めて存在を知った種類の美術品です。明治末期、衰退していた伝統的な浮世絵版画の手法を取り入れつつ、西洋の写実表現を取り込んだ版画を「新版画」と呼ぶそうです。

「新」がついているから現代の版画なのかな、と思いきや、近代に生まれた版画なんですね。まるでフランスのポン・ヌフみたい。ポン・ヌフって新しい橋という意味ですけれど、パリに現存する最古の橋なんですよね。本当に新しい橋だと勘違いして観光に行きそびれた、と某作家さんが悔やんでましたが、わたしも勘違いするところでした。

こほん。話題を戻します。

この新版画の展示は、2022年7月16日から始まっていました。初日にはイベントもあったよう。興味はあったのですが、別の用事があったため、行けませんでした。代わりに、人が少ないだろう平日、おまけに用事があって美術館近くまで出かけなければならなかった今日を狙って、訪れたのでした。

今回、展示されている新版画は180枚ほど。なかなか圧倒される数です。

これまで西洋画ばかり鑑賞してきた身には、特に新鮮でした。日本画を鑑賞できた機会は数えるほど。浮世絵なんてもっと機会がない。ましてや新版画なんて、今回が初めてです。ゆっくりゆっくり、絵画に添えられたキャプションを読みながら見て回って、これまで知らなかった世界を堪能してきました。

というか、そもそもわたしは浮世絵がどうやって描かれるのか、知らなかったのです。だから新版画なんて、もっと知らなかった。学生時代、美術を選択してなかったからなあ、と言い訳しつつ、己の不明を恥ずかしく感じました。でね、美術館に向かう公共機関の中でネット検索してみたのですよ。

すると、浮世絵には「木版画」と「肉筆画」という二つの形式があると知りました。

木版画は奈良時代に中国から伝来した技術で、絵師、彫師、摺師(すりし)が分業して制作するから大量生産できます。一方、肉筆画は絵師が手筆で描く浮世絵で、この世に一枚しか存在しません。かの有名な葛飾北斎は最晩年、この肉筆画を中心に描いていたようですね。

そして今回、展示されている新版画は、海外への輸出用に浮世絵の原画や復刻版を制作していた渡邉庄三郎氏によって確立されました。浮世絵の木版画と同じように、絵師、彫師、摺師による分業で制作されています。当初はフリッツ・カペラリやチャールズ・W・バートレットらの原画を木版で翻刻していましたが、やがて伊東深水や川瀬巴水といった日本人作家による木版画も生まれたとか。

そうして生まれた新版画は日本国内より海外のコレクターから高い評価を受け、かなり盛り上がっていたのですが、第二次世界大戦によって、ブームは終わりを迎えたのだそうです。

切ないなあと感じました。また、だんだんと戦争に向かっていく世相について、渡邉庄三郎氏はどう考えたんだろうとも思いました。版画のカタログをね、戦時下ゆえに簡素化したというキャプションを読んだのですけれど、そういう制限があっても精一杯を尽くそうとした、とも書いてあり、あの時代に存在していた、渡邉氏の新版画にかける情熱を眩いようにも感じられたのです。

期間限定メニュー、もちろん食べてきましたよ!

ひろしま美術館に併設されているレストランの、期間限定メニューのひとつ、ハンバーグです。単品かと思いきや、しっかり、サラダとパンもついてきました。お値段は1100円。

とっても美味しかったです……。

最近、わたしってばダイエットを志してシンプルな食事を作っていたんですよね。野菜炒めとかラタトゥユとかパスタとか。だからこういう、しっかりと手の込んだ料理ってひさしぶり。ハンバーグが、本当に懐かしい味のハンバーグで、とっても美味しかった。ひと口ずつ、惜しむように食べてましたよ。パンはきっとアンデルセンのパン。バターをぬるとこれまた風味がよかったですねえ。

期間限定メニューは他に、プリン・ア・ラ・モードやクリーム・ソーダがあります。今回のメニューコンセプトは、「新版画が展開した大正から昭和にかけての喫茶店をイメージ」とのこと。

その言葉に納得して、わたしはぽんと手を打った次第。

それというのも、メニューで見たプリン・ア・ラ・モードがまさしく、懐かしい盛り付けだったのですよ! 果物やウエハースと一緒に、ガラスの器にプリンが盛り付けられているの。うう、お腹に余裕があれば、プリンだって食べたかった。朝ごはんがガッツリだったから、控えたんですけれどもさ。

今回はお土産も購入しました。

購入したお土産は、こちらのポストカードです。小原祥邨(おはらしょうそん)の版画をポストカードにしたもの。たくさん並んでいたのですけれど、わたしは特にこの二枚を気に入ったのですよ。

かわいいでしょ?

展示を見ているときにもね、ちょっと親しみを覚えた版画なのです。小原祥邨といえば、「柘榴に鸚鵡」という版画が有名みたいなんですが、わたしはこの二枚が、より好きになりました。

それにしても、今ってありがたい時代ですよね。欲しいと感じた版画のポストカードが、一枚120円で購入できる。むかしだったらこんな手軽な形と値段で購入できなかったんじゃないかしら。

おわりに。

今日の予定が早くに終わったため、訪問できたひろしま美術館。

訪問してよかったなあ、と、今回も感じています。

なんと言ってもね、新版画の存在を知ることができて嬉しかったです。日本の美術品なのに、知らなかった。というか、そもそも浮世絵が衰退しかかった時代があったことすら知らなかったんですよねえ、わたし。そんな自分にとほほな気持ちになりましたが、でもおかげさまで豊かな気持ちになりました。

特に、浮世絵の木版画は分業して制作するという事実には、とっても驚きました。芸術家って孤高の存在だと思っていたから、そういう形の芸術があるってこと、思いがけなかったのですよ。チームで制作する芸術家なのね、と考えたとき、最近、勉強しているWEBサイト制作を連想しました。

や、WEBデザインは芸術ではない、と多くの方がおっしゃると思うのですけれどもさ。

ただ、世の中には素敵なWEBサイトが多く存在しているでしょ? 好きなWEBデザイナーさんが手がけたWEBサイトを見たとき、わたしの気持ちは浮き立ちます。WEBサイトを素敵だなあと感じる、その気持ちは、今日鑑賞した新版画に対して抱いた気持ちと、ちょっとだけ似ているのね。

情報受信にとどまらず、そのWEBサイトをいつまでも眺めていたいような感じ。

芸術は、もしかしたら身近なところにも隠れているのかもしれない、とも思いつきました。

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