宝箱集配人は忙しい。

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 なにかを初めて経験する人からしか、味わえない旨みがある。

 たとえば、いま、隣に座っている貴公子から、僕は微笑ましさを感じ取っている。スパイスたっぷりの煮込み料理をスプーンですくい、そろそろと口に運んだ貴公子が咀嚼し、飲み込んで瞳を輝かせる彼の様子は、いっそ懐かしいといっていいほどだ。

 遠い記憶に存在する僕を、じっくり見守っていた母親も同じ気持ちだったのだろうか。

 しみじみと感じ入った様子で貴公子は言う。

「うまいな」
「ですよね」

 短く答えて、僕も煮込み料理をスプーンですくって口に運んだ。

 舌先に、ピリリとした刺激を感じる。でもそれ以上に、スパイスの豊かな旨みが口の中に広がった。ああ、これだ。久しぶりに食べる煮込み料理は、母親が作ってくれたものとはやっぱり違う味付けだった。この煮込み料理に使う肉も違う。スパイスの配合も。

 それでも僕は、充分に楽しむことができた。

 たぶんそれは、貴公子のおかげでもあるだろう。感傷に捕まってもおかしくない状況だったけど、素直にカレーを楽しんでいる彼を眺めていたら、感傷なんて立ち入る隙間なんてない。新しい味と共に新しい思い出が上書きされることを、僕は素直に喜べた。

 たとえ貴公子が、僕の記憶を奪った存在だとしてもね。

 そして食堂の娘さんが添えてくれたアチャールはニンジンのアチャールだった。シャキッとしていてピリリと辛く、それでいて酸っぱ甘い。僕はこのアチャールをライスに乗せてカレーと一緒に食べることを貴公子に教えた。すると彼も完全に気に入った様子だ。

 あっという間に食べ終えて、僕たちは今、食後のマサラチャイを飲んでいる。しっかりした甘味とたっぷり入っているスパイスが、ほかほかと気持ちを和ませてくれる。

「これほど食べ終わりたくないと感じる料理は、そうはないぞ……」
「そうですよねえ……」

 しみじみと告げる貴公子に、僕もしみじみと応える。

 たかが家庭料理に何を言ってるんだ、という意見もあるだろう。大げさだと言われてしまうかもしれない。

 でもこのときの時間が終わることを、僕はとても惜しく思えたんだ。

 そしてこの貴公子も同じことを感じていると知り、嬉しいと思った。

(でも)

 マサラチャイを飲みながら、僕は頭の隅っこで冷静に考える。

(僕がここにきた理由はなんだ?)

 交流を深めるためじゃない。それはあくまでも名目なんだ。僕の本当の目的は、この貴公子から、旅の目的や正体を探ること。そのための交流。目的があっての交流なんだ。

 そう言い聞かせていたときだったから、貴公子の言葉に僕は動きを止めてしまった。

「この街を立つ前に、この味を知ることができて、よかった」

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