宝箱集配人は忙しい。

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「室長さん」

 勇者の呼びかけに、僕はゆっくりと振り返った。

 そうして見つけた勇者一行の表情はさまざまだ。驚愕に疑惑に困惑。だが勇者だけは僕を思いやる表情を浮かべている。視界の隅で、宿屋の娘さんがぺたりと床に座りこむ様を見届けながら、僕は口を開いた。

「おかえりなさい、と言っていい状況なんですかね、勇者どの」

 僕の言葉を聞いた勇者は、苦笑を浮かべる。

「いいえ、残念ながら。魔王の化身を倒すことはできましたが、本体を逃しました」
「魔王の本体とは、さっきまでここにいたあの人のことですか」

 淡々とした調子で僕が訊ねると、勇者は一瞬だけ視線を揺らしたものの、「そうです」と答えて、僕をまっすぐに見た。

 僕は笑った。他にどうしようもなくて。

「そうですか。あの人が魔王だったんですね」
「室長さん」

 何事かを言いかけた勇者を制止して、魔法使いが僕に剣呑な眼差しを向ける。

「本当にあれが魔王だと知らなかったのか? ずいぶん親しげだったが」

 僕は静かに魔法使いを見返した。

「この街でもっとも、あの人と親しかった人物は僕でしょうね。拘束しますか?」
「室長さん!」

 宿屋の娘さんが、悲鳴のような声をあげる。

 見ると、娘さんがボロボロと涙を流しながら、首を横に振っていた。そんな娘さんを支える宿屋のおかみさんも、主人も沈痛な表情を浮かべている。その様子を見てとった魔法使いは、複雑な様子で沈黙した。勇者が口をひらく。

「そのつもりはありません。魔王は、人を欺く。あなたがたは被害者だ」

 それはおそらく、勇者なりのフォローだったんだと思う。

 ただ、その言葉を聞いた宿屋一家はうつむいたし、僕も苦い気持ちになった。

(本当に、ばかだ)

 心の中でそうつぶやいたものの、だれに向かってそう言ってるのか、自分でもわからない。ただ、これまで貴公子が見せてきた姿が、脳裏に浮かんだ。

 ごはんを美味しそうに食べるときの表情。

 多勢に無勢という不利な状況であっても、戦いに挑むときの表情。

 そして初めて会ったとき、不審がられながらも堂々と「旅人だ」と言い切った表情。

 それらの表情を思い起こして、僕は目を閉じて。

 ドラゴンに会いに行こう、と思った。

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