宝箱集配人は忙しい。
第69話
ルーメリアを頭にのせていると、人からの注目を集めていると実感してしまう。
なにせ、小さいといえど、ドラゴンだ。
残念ながら、ぬいぐるみだと誤解する人は少なくて、ほとんどの人がギョッとしたようにルーメリアを二度見する。そして多くの人が、ルーメリアの愛らしさに微笑むんだ。
「ルーちゃん。今日も元気そうね」
ダンジョンの宝箱の鑑定にやってきた冒険者の一人が、僕に話しかけてくる。
すると僕が答えるより先に、キュイ! とルーメリアが答える。
くすくすと笑って、冒険者が指先でルーメリアをからかうと、ルーメリアもまた、楽しそうに羽をばたつかせるんだ。おかげさまで、僕の髪はいつもボサボサだ。
「今度、ルーにごちそう持ってきてやるよ! たしかポワルの実が好きだったよな?」
「そうね。ちょっと遠出になるけど、ルーちゃんが喜んでくれるし」
そんなことを言い出す冒険者たちもいる。ルーメリアはすっかり、冒険者ギルドのアイドルになったのだ。僕は苦笑して、鑑定した宝箱の中身を冒険者たちに知らせる。その結果に喜ぶものもいれば、ため息をつくものもいる。これまでと変わらない。
宝箱集配室は、ダンジョンの管理者を見つけるという、そもそもの目標を達成しても、引き続き存続しているのだ。
——あれから。
いかなる魔法を用いたのか、麗しの秘書どのは、本当にすべてを丸く収めてしまった。
正確には、冒険者ギルドのギルド長たちの働きかけもあったんだけどさ、僕は魔王とは関わりのない一般人、魔王の尖兵だという判断は神殿長の誤解だという認識が広まった。
まあ、そもそも、僕は宝箱集配室の室長として長く真面目に勤めていたから、そんな人間が魔王の尖兵だと見なすところに、無理はあったんだよ。おまけにドラゴンを倒したわけだし、大人の事情も絡んで、魔王側の人間だと主張を続けるのは難しかったんだよね。
そうは言っても、ルーメリアがいつも一緒だから、やっぱり疑いのまなこを向けてくる輩は一定数、いる。特に神殿側の人間は、僕に対しての態度がちょっと厳しくなった。これは、神殿長が責任をとって地位を退いたことも関係していると思う。神殿長自身は、「楽隠居させてもらうさ」と言っていたけれど、あの人を尊敬している人間からしたら、やっぱり僕に対して、モヤモヤする気持ちを抱えてしまうのはしかたない話だ。
加えて、ルーメリアの件もある。
ルーメリアに関しては、ダンジョンで発見されたドラゴンだと説明しているんだ。
や、だって嘘じゃないよ?
ルーメリアはあのドラゴンが生まれ変わった存在だから、ダンジョンで発見されたドラゴンだという事実に変わりはない。よね?
ドラゴンが魔王の尖兵だという認識は、それこそ襲撃された側である神殿の誤解だったし。そもそもなぜ、ドラゴンが神殿を襲撃したのかといえば、ドラゴンの雛が神殿によって不当に拘束された僕の懐にいたからだ、——という話にもなっている。
つまり、僕のせいでドラゴンに襲撃されたんじゃねえか、という筋書きになってるんだけど、しかたないよねー。僕、いたいけな一般人なのに魔王の尖兵として尋問までされちゃったからねえ。というわけで、神殿長が引責した理由は、そのあたりも絡んでる。
そして、僕は。
ダンジョンの守り人になったけれど、何も変わらない生活を送っている。
だって、ドラゴンが持っていた叡智を引き継いだけど、僕自身が凡人だという事実は変わらない。寿命が伸びたというわけでもない。ただ、平凡な僕にとって、分不相応な知識を入手してしまったというだけで、僕自身の能力が引き上げられたわけでもない。
——ただ、魔王が。
あの貴公子がなぜ、魔王として活動しているのか、それを理解できたくらいだ。
さらに、勇者には真実の意味で、魔王を倒せないという事実も、理解できてしまった。
だからと言って、僕にできることは多くはない。
古代文明の叡智は、やっぱり、いまの社会が持て余す知識なんだ。
魔王である貴公子の活動は、いまの世界がこのままであるかぎり、止められない。
古代文明の継承者になったからといって、そんな世界を変えられるわけでもない。
世界を変えるのは、いつだって、有名じゃない凡人たちだ。
だから僕は相変わらずここにいる。
ここにいて、ルーメリアとともにダンジョンに挑む冒険者たちを支援する。その裏側では、ダンジョンを通じて冒険者たちの能力の底上げを試みる。波紋を生み出す。
その先で、世界が変わっていきますように。
あの友人が、いずれ、魔王という責務から解放されるよう、祈りを込めて。
宝箱集配人である僕は、今日も忙しい日を送るのだ。
<終>
