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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

パンの焼ける匂いで目覚め、たかった。

なぜか夜中の三時に目が覚めました。悪夢を見たわけではなくて、唐突に。

うーん、これって中途覚醒になるのかしら。いちおうお医者様に相談したほうがいいのかなあ、と考えつつ、ベッドでうだうだしていたのです。寝直そうとしたんですけれど、難しくてね。

でもふっと唐突に思いついたんですよ。そうだ、ホームベーカリーを仕込もう、と。

最近、わたしの朝食は卵かけご飯です。つまり手抜きご飯なんですけれどもさ、たまにはコメダのような朝食を食べたくなったんですよ。でね、ホームベーカリーを使えば、焼きたてのパンを作ることができるじゃない! と閃いて、ガバリとベッドから起き上がりました。

寝ぼけ眼の猫をベッドに置いて、わたしはいそいそとホームベーカリーを仕込んだのです。ええ、さいわいにもホームベーカリーのパンの材料セットを一回ぶん、購入していましたから。

でもね、誤算があったんですよ。

持っていた材料セット、フランスパンのセットだったんです……。どうしてそれが誤算なのかと申しますと、我が家のホームベーカリーでは、フランスパンの焼成時間は普通の食パンより長いんです。ええ、五時間以上かかります。

ここで問題です、わたしが目覚めた時間は?

そう、夜中の三時。正確には寝直そうとジタバタしてたから、ホームベーカリーを仕込み終えた時には、三時四十分になっていました。

プラス五時間で、すなわちパンの完成時間は八時四十分!! パネルに表示された終了予定時間を見てから、その事実を思い出しましてね。あちゃーと思いました。そんな時間、いつもの起床時間なんてとっくに過ぎた時間だし、もっというなら就労支援が始まるって時間でもあるわー!!!

でも仕方ないじゃないですか。仕込んだ以上は。

己の失敗に興奮したはずのわたしは、なぜかそのままスムーズに寝直し、いつも通り、朝の七時前に起床しました。当然、朝ごはんにパンは焼けていません。冷凍ごはんを解凍していつもの卵かけご飯を食べながら、「こんなはずじゃなかった」という気持ちになったのです。

でもね! 美味しいパンは出来上がったんですよ。ええ、八時四十分過ぎに。

就労支援が始まる前に家事をしていたら、いい匂いが漂ってきました。家にあった胡桃もまぜたからね、出来上がったパンはフランス胡桃パンなんですよ。どんな感じに仕上がるかなあ、とウキウキしました。パンが焼きあがり、ケーキクーラーにて冷まし、就労支援を受けました。

そうして昼ごはんに、フランス胡桃パンを食べました。

美味しかったです。とっても。ただ、コレジャナイ感もありました。夢見たものはコメダ珈琲店で食べられるような、たっぷりのコーヒーとトーストプラスアルファ(ゆで卵を選ぶ時が多いけれど、あんペーストを選ぶ時もある)の朝食だったんだけど……。

いいんだ、少なくとも明日の朝食はパン食にできるわけだし。

明日の朝食を夢見たスタイルにするため、今からゆで卵を茹でておこうかなあ?

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