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公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

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茶道部のおもてなし 終章

目次

終章

 中間テストは、なんとか赤点をまぬがれた。

 それは結衣も同じだったようで、「よかったあ」とつぶやく声が後ろから聞こえる。

 なんとか中間テストを乗り切ることができた理由は、茉奈と海斗が面倒を見てくれたからだ。この二人にはひたすら感謝するしかない。もっとも二人とも呆れた様子で、「ノートを貸すのは今回限りだからね」「ふだんから勉強をちゃんとしておくように」と声をそろえて言っていた。ごもっともな発言に、乃梨子も結衣も反論できない。それに友達に貸しを作ってばかりの状況は、たしかにいやだ。期末テストこそ、しっかり対策をして二人に面倒をかけないようにしよう、と考えた。

 さて、今日は水曜日だ。茶道部の部活動がある日である。

 吹奏楽部の部活に向かう茉奈に手を振って、乃梨子は結衣とともに和室に向かう。まだだれもいないから、職員室に向かって和室の鍵を借りてきた。和室を開けて、窓を開け放てば、初夏の風が入り込む。早く夏服になりたいと考えるほど、今日はすでに暑い。

(もう、夏が近づいてきてるんだなあ)

 三月、この学園の転入試験を受けたときを思い出した。あれから三ヶ月。わずか三ヶ月しか経っていないというのに、ずいぶんいろんな出来事があったように感じている。

 ましろさまに出会ったこと。結衣や海斗に出会ったこと。

 茶道部に入ったこと。

 茶道を学び、茶会を催した。半東という務めをこなした。

 それは、引っ越してくる前には考えられなかった、いろいろな出来事で。そうしてこれからもいろんな出来事が起こるんだと思えば、不思議な気持ちになった。

 ----きっとそなたはこの学園で知るだろう。縁ある者との出会いや、その出会いによる喜びを。進むべき道を見出したときの心強さを。ときには心通わぬ者との衝突に怒り、思い悩む瞬間があったとしても、それでも一人ではいられない現実を知るだろう。

 唐突に、ましろさまから言われた言葉を思い出した。

 意味を充分に理解しきれない言葉だから、忘れてしまったと思っていたのに、いま、不思議なほど、はっきりとすべての言葉を思い出した。うん、と、心のなかでうなずいた。

 これからもきっと、いろんな出来事がある。

 喜ばしいことばかりではないのかもしれない。でも大丈夫だと思えるのだ。綺麗な和菓子を食べ、お茶を点て、ひともあやかしも混ざった、不思議な顔ぶれで和やかな時間を楽しむ。そんな時間もきっと、これからも乃梨子の生活に寄り添ってくれるだろうから。

「乃梨子ちゃん。帛紗さばきの練習をしよう?」

 茶器の準備を進めていた結衣が呼びかけてくる。「はーい」と乃梨子は答えた。

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