宝箱集配人は忙しい。

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 マサラチャイをすすっていた唇を、カップから離して、僕は貴公子を見た。

 貴公子は静かな横顔を僕に見せて、マサラチャイの入ってるカップを見下ろしている。僕の驚きに気付いただろうに、揺らがない横顔は微笑んでいるようにも見えた。

 ぐるぐると頭の中で、単調な言葉が回る。

 どうして。

 いちばん強く響いている言葉は、ありふれた疑問の言葉だ。

 せっかく僕たちは友人になれたのに、どうしてこの人は旅に出るというのか。このままこの街にいたらいいじゃないか、この宿の主人たちも、あなたによって救われた人々も、そしてもちろん僕も、あなたを頼りにしている。ここに定住したらいいじゃないか。

 そう言いそうになって、でも旅人である貴公子に、そんな要求をぶつけるなんて理不尽だと、僕の理性が訴える。同時に、冷徹な調子で僕の理性は指摘するのだ。

 この人は、察している。

 自分が怪しまれていることを。ギルドから僕の記憶を奪った存在として疑われていることを。そしてその疑いが真実であると僕が確信していることを、察している。

 だから、この地を去ることを決めたのだ、と理解できた。

 どうしたらいい。どうしたらいいんだ。

 僕は混乱した。僕らしくもなく選択に迷い、だからだろうか、ポロリと言うつもりがない言葉が、口からこぼれ出てしまったんだ。

「さびしくなりますね」

 すると貴公子は目を丸くして、カップから僕に視線を移した。

 なんとなく視線を合わせにくくて、僕はマサラチャイをすする。貴公子の視線を感じ取っていたけれど、なぜだか僕は、頑なに貴公子を見ないようにしていたんだ。

 すると、ふ、と微笑む気配がした。

 ぽす、と貴公子の手が僕の頭にのり、くしゃくしゃとかき回す。突然の行為だ、さすがにびっくりした僕が貴公子を見てしまうと、彼は温かい目で嬉しそうに笑っていた。

「……そなたが、そう言ってくれるとはな」
「なんですか、それは」

 貴公子の手がはなれたあと、僕はくしゃくしゃになった髪を整えた。

 整えつつ、ちょっとばかり不満を抱く。

 なぜ頭。宥めるにしたって、肩を叩くとかあるだろうに、なぜ頭を撫でるんだこの人は。僕を子供扱いしているんだろうか、という、とてもちいさなことが気になったけれど、貴公子の微笑みがあまりにも嬉しそうなものだから、僕は不満を口にできなかった。

 ひとつ、息を吐いて貴公子に告げる。

「また、この街に来たときは知らせてくださいよ」

 貴公子は微笑んだまま、なにも言わない。強い不安を覚えて、僕は言葉を重ねた。

「僕はまた、あなたと一緒にチーズリゾットを食べたい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んですからね」

 そう言ってから、あれっ、と僕は首を傾げた。

 なんでチーズリゾットなんだ? そもそもチーズリゾットをこの人と一緒に食べたことなんてないんだけどな、と思いながら、途方に暮れて貴公子を見たら、強張った顔で僕を見ている。その反応を不思議に感じて、パチパチと目を瞬いたら、貴公子は我に返ったようだった。

 そのまま僕に手を伸ばしかけて、でも、途中でその手を止めて。

 なぜだか泣き出しそうな顔で言ったんだ。

「そなたは本当に、得難い存在だ」

 そうして、自分自身に言い聞かせるように、続けたんだ。

「だからこそ、ーー」

 貴公子の言葉は途中で頼りなく消える。そのまま、ふいと顔を動かした。その動かした先に、つられて僕も視線を向けた。そうして目を見開いた。

 なんと、魔王討伐の旅に出てきた勇者たち一行が、その先にいたんだ。

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