資格が職探しに役立ちますか? (1)

 はあ、と溜息が唇からこぼれる。
 さあさあと背後では噴水が流れる音がする。さんさんと輝く陽射しにあって、流れる水の気配は心地よい。噴水の縁に腰掛けて、キーラは再び溜息をついた。憂鬱である。

(これで連続十四店ねー……)

 何の数かと云えば、就職の面接を断られた飲食店の数である。最初に勤めていたカフェは隠していた資格を知られたその日の内にクビになった。かといって他の店に職を求めても同様である。どうやら噂が回ったらしい。困ったような顔で云われてしまう。

『悪いんだけど、さすがに紫衣の魔道士さまをうち程度で雇うわけにはいかないんだよ』

 魔道士としてではなく、従業員として雇っていただきたいんです。
 キーラはそう強く主張した。だがどの店の主も渋るばかりである。理由はわかる。最近とみに増えてきた、この面倒事も、その断られる理由のひとつだろう――。

 三度目の溜息をついて、億劫に顔を上げる。にやにやと笑う男が2人、キーラを見下ろしていた。恰好から判断するに、このマーネに集まる傭兵だろう。腕の防具が特別製であることはすぐにわかった。魔道士対策をした傭兵なのだ。静かに腹底に力を集め始めた。男たちは気づかない。魔道士としての才は、欠片ほどにもないらしい。無言のまま、キーラは男たちの防具に向けて力を解放させた。ぱりんとかすかな音が響く。

「おいおい、このお嬢ちゃんが最高位の魔法使いだって?」
「信じられねえよなあ。紫衣の魔道士と云えば、魔道士ギルドで最低十五年の修業を、」

 揶揄の言葉を紡ぎながら、何気なく男たちは視線を落とす。防具が割れて地面に落ちていた。もはや修復しようがないほど、防具は赤錆びて劣化している。
 男たちの顔色が青白く変化する。キーラは立ち上がった。身長差で男たちを見上げる態勢になる。だが堂々と腕を組み、目を細めて見上げれば、男たちは慌てたように後退し、足をもつれさせた。
 これでも最高位の魔道士なのだ。心の中で呟いたキーラは、もはや男たちを構わず歩き始める。二、三歩歩いて、走り出した。なんだかいたたまれない。安っぽい挑発を仕掛けてくる男たちに苛立ちを覚えるが、まともに受けて立っている自分も自分だ。

(だって、しかたないじゃないの!)

 ああいう輩は、追い払っても追い払っても、まとわりついてくる。ならば一度だけ相手をして、彼らのやる気を削げばいい。
 しかしそれは、よくよく考えなくても、飲食店のいち店員にふさわしいあしらい方法ではなかった。力任せの退散方法しか思いつかない、だから雇ってもらえないのだ、と云う事実にキーラは気づいていた。現状の原因は、結局、自分にあるのだ。

(修行不足、って、ことなのよねえ)

 ゆっくりと速度を落とした足は、無意識のうちに、通い慣れた道を歩いていた。
 煉瓦造りの道も、こまごまと並ぶ建物も変わらない。けれどだんだんと潮の匂いが強くなる。落ち込んでいた気分が、わくわくと浮上し始める。通り過ぎていく人ももはやキーラには構わない。この通りを進む人は、誰もが自らの仕事に集中しているからだ。

 港である。キーラは風に髪をたなびかせながら、マーネの心臓部分ともいえる場所に足を踏み入れていた。ぷんと潮が香り、すぐそこまで波が押し寄せ、船がぷちょぷちょ揺れている。唇がほころぶ。邪魔にならないよう、船着き場ではなく灯台に足を向けながら、完全に先ほどまでの気鬱を忘れた。歩いているうちに、楽観的思考も芽生える。

(まあ、明日もあるものね)

 マーネにはまだ飲食店が存在する。あるいは、紫衣の魔道士だからこそ、用心棒を兼ねた店員として雇おうとする飲食店もあるかもしれない。

 ようやく持ち直した希望にもう一度微笑んだとき、キーラはその気配に気づいた。眉を寄せて、振り返る。隠れるつもりはないのだろう、金髪の青年は堂々と歩み寄っていた。金の髪で陽光が煌めき、優美な美貌に彩りを添える。剣を佩いているが、まさか一人なのだろうか。思考の片隅で考えながら、キーラは口を開いた。

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