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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

資格は活用してこそ (4)

 さて、アレクセイの即位を五日後に控えたいま、魔道士ギルドの支部長として行わなければならない仕事とは、即位の式典に添える、魔道的演出の打ち合わせと下準備である。 

 魔道士ギルドは、王となったアレクセイが広場に集まった民衆に披露されるとき、スキターリェツ発案のハナビを打ち上げるのだ。ハナビとは、スキターリェツの故郷の産物で、鑑賞するだけで気分が盛り上がる代物であるらしい。どうやら金属の炎色反応を利用した代物らしいが、あいにくと詳細がわからないため、魔道で代用する。だからいま、魔道士ギルドには集まった魔道士たちが、そのために研究を重ねているのである。 

 ――――魔道士ギルドは、アレクセイの即位後、本拠地をルークス王国に移す。 

 キーラは支部長就任後に、その決定を聞いた。正直に云えば、だまされたような気分である。ギルド長の後継者にならない代わり、魔道士ギルドルークス支部長になると決めたのだ。なのに、ルークス支部長が魔道士ギルド全体のギルド長となるだなんて、まったくだれが予想できたと云うのか。これは詐欺である。ギルド長は狡猾なこと、このうえない。 

 とはいえ、一度、引き受けた役目である。なにより、ギルド長の対外的な仕事はスキターリェツがやると聞いた以上、拒否してはならないと感じた。キーラが担うであろう負担を減らすため、様々な手を打たれている。それがよくわかったからである。 

「あ、支部長」 

 スキターリェツと王宮で別れ、魔道士ギルドに向かったキーラは、まっさきに研究室に入った。魔道的衝撃を最低限にするよう、結界に囲まれた部屋である。すでに数人の魔道士たちが研究室に集まっており、独特の熱気にあふれていた。邪魔にならないよう、すぐに踵を返そうとしたのだが、一人がキーラに気づいて声をあげた。やむなく足を止める。 

「おはよう。経過は順調?」 
「それが聞いてくださいよ。ブラッドさまがまったく、」 

 何事か言葉を続けようとした若者の肩に手が乗っかって、「くぉらっ」と若い男の声が割り込んできた。手の持ち主は紫衣の肩掛けをしている。キーラは苦笑して同僚を見た。 

「今度はなにをしたわけ、ブラッド?」 
「なんだいなんだい。どいつもこいつもひでえなあ。おれがなにをすると考えてんだ」 

 長い髪をひとつにまとめた男、ブラッドは、今回、式典に参列するためにやってきた紫衣の魔道士である。十二大国のひとつ、トリスティスにて魔道士ギルド支部長をしている。 

 キーラはわざとらしく黙り込むことで、ブラッドの嘆きに応えた。やれやれ、とブラッドはおおげさに手を広げてみせる。一瞬の間を置いて、互いに吹き出した。困惑している若者にうなずきを返して、ブラッドに向き直る。「で?」とキーラは短く訊ねた。 

「だから、ハナビは夜にやるもんなんだろ? だったら紫衣が一堂に集まるわけだから、いっそ真っ暗闇にしてしまえばいいんじゃないかって提案をだなー」 
「なるほど。それであなたは」、と、キーラは若者に目を向けて「反対したわけね」と告げた。 

 すると生真面目そうな若者はひとつ頷いて、様々な問題点を連ね始めた。警備に不安が残るとか、民衆に動揺が広がるといった、実に理にかなった反論を聞きながら、キーラはブラッドの提案を思案した。 

 式典は昼間に行われる。ハナビは夜に打ち上げるものだからぜんぜん花火が映えないとスキターリェツは嘆いていたが、ブラッドの提案を受け入れれば、存分にハナビの魅力を発揮できるわけだ。うん、とひとつ頷いて口を開いた。 

「ブラッドの提案、受け入れるわ」 
「支部長!?」 
「おお、さすが話が分かるねえ」 

 いつのまにか、三人の会話を聞いていた魔道士たちがキーラの言葉にざわめく。 

 驚愕の視線を向けられたので、にやりと笑って口笛を吹いたブラッドをさておいて、キーラはくるりと魔道士たちを見回した。そもそも、アレクセイの式典における演出は、魔道士ギルドの総意なのだ。 

「今回、あたしたちの目的は、ルークス王国新国王に魔道士ギルドがつく、と示すこと。演出は派手であればあるほど、ちょうどいいわ。思いつく限りをやりましょう」 
「で、でも式典まで五日しかないんですよ?」 
「五日 あるのよ。なんとかしましょう」 

 悲鳴のような声をあげた魔道士にあっさり応えて、キーラはじろりとブラッドを見た。 

「提案されたブラッドさま? 当然、他のだれよりもご負担していただけるのよね?」 
「ま、発言の責任をとってな。次期ギルド長どのもそのつもりだろう?」 
「あたしたち、と云うより、紫衣全員でね。だってそのための最高位だもの」 

 紫衣の魔道士二人の短いやり取りに、まわりの魔道士たちは奮い立ったようだ。 

 やる気がいい具合にみなぎった顔つきを見回していると、研究室の扉が開いて不機嫌顔のレフが入ってきた。「よう、レフの旦那!」、とご機嫌にあいさつしたブラッドを無視し、レフは一枚の封書を差し出してきた。キーラは首をかしげながら、開封されている手紙を広げる。最近、増えてきた魔道士ギルドへの依頼だろう。視線を落とし、息を呑む。 

 ――――魔道士さんたちを殺した犯人を見つけてください。 

 そう、きれいな文字で書かれていたのだ。どうすべきか、判断しかねて、キーラは唇を結んだ。 

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