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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

権利を主張できる資格は、とうにない。 (6)

 構成された魔道が拡散されていく。一瞬だけの浮遊感覚が抜け切れない瞬間だった。 

「、キーラっ!」 

 メグからの警告に、先に身体が動いていた。大気の力を集め、こちらにやってくる魔道へとぶつける。音もなく、だが、衝撃は残して、魔道は散った。ほう、と息をつく。 

 まったく物騒だ、と考えた次の瞬間、キーラは鋭く息を呑んだ。 

「じいさまっ」 

 厳つい身体つきの精霊を相手にしているギルド長の背中が、目に入ったのだ。どうやら今の魔道は、ギルド長への攻撃が外れてこちらにやってきたものらしい。転移魔道によって現れたキーラたちを見て、精霊はひとたび、攻撃の手を止めた。 

 転移した先は、丸い天井におおわれた、銀色の部屋だった。珍しい、とキーラは感じた。天空要塞は石ではなく、金属で構成されているようだ。どれだけの労力を使って作り上げたのかしら、という疑問を抱きながら、ギルド長越しに、動揺した様子の精霊を見る。 

 ギルド長に攻撃を仕掛けていた精霊は、たった一名。だが、まわりには幾人かの精霊たちが倒れている。死んではいない、気を失っているだけだ。閉ざされた大きな扉を半円状に囲むかのように倒れている。まるで気を失う寸前まで、扉を守ろうとしたかのように。 

 いや、それが事実だろう。よくよく目を凝らせば、技巧的に優れた結界が盾のように、扉をおおっている。強固な結界は、以前に見た記憶がある。里長が交信室に入っていたときだ。精霊と結界をどうにかしなくちゃ、と考えたとき、前に進むロジオンに気づいた。 

 魔道能力もないくせに、ロジオンはずいと進んでギルド長の前に立つ。あわててキーラも進んで、ギルド長をのぞきこんだ。「来たか、キーラ」、にやりと笑ったギルド長に外傷はない。だが張りつめた気が緩んだためだろうか、崩れ落ちるように片膝をついた。どのくらいの時間かわからないが、一人で戦っていたのだ。さすがに憔悴した様子である。 

「じいさま……」 
「どいてくださいませ」 

 メグがキーラを押しのけて、ギルド長に癒しの魔道をかけるために詠唱を唱え始める。ロジオンが精霊に相対したまま、ギルド長に語りかけた。 

「ありがとうございます。約束通りみなにトドメをささないでいてくださったのですね」 
「ただ、先送りにしているだけじゃがの」 

 わずかにロジオンの肩が揺れた。「スィン」、と一人残った精霊が呼びかけてきた。ロジオンよりもキーラよりも若い精霊だ。キーラには覚えがないが、ロジオンは短く応える。 

「バオ」 
「おまえは、おれたちの敵に回るつもりか」 
「そのつもりはないよ。ただ、わたしは」 
「ただもなにも、あるものか!」 

 そう叫ぶなり、バオと呼ばれた精霊は空に文様を描き、魔道を組み立てる。だが、同時に、キーラも動いた。力を集め、バオの魔道を防ぐ盾を作り、ロジオンの前に発動させた。 

「バオ、やめろ!」 
「うるさい、この裏切り者!」 

 ロジオンが制止したが、バオは完全に我を忘れた様子で、次々と攻撃魔道の文様を描いた。ありがたいことに、長ほど技巧的な文様ではない。キーラは精霊がつむぐ魔道をすべて無力化させたが、鋭く舌打ちした。バオの魔道は、ひたすら数で押して攻めているだけである。だから面倒で、おまけに、きりがない。時間が迫っているのに、と苛立っていると、ギルド長がささやく。 

「キーラよ。ロジオンが精霊を説得し終えるまで待つつもりかの?」 
「いまは攻撃を防ぐしかないじゃないっ。たしかに時間があまりないけど」 
「あまり、ではない。いま、天空要塞が動きを止めている理由は、すでに王都が、天空要塞の攻撃範囲に入っているからじゃぞ。暗闇の魔道が消えた瞬間に、攻撃を仕掛けるつもりなのじゃ。だれの目にもわかりやすく鉄槌を下すべきだ、という考えに基づいてな」 

 うわあ、いやな思考。顔をこわばらせて、ギルド長を振り返る。メグに支えられながら、ギルド長は立ち上がり、苦い顔つきで扉を睨んでいる。 

「なんでそんなことを知っているのよ、じいさま」 
「そこの青臭い精霊が教えてくれた。じゃから諦めろとな。親切なことじゃろ?」 
「そういうの、親切って云わない!」 

 だとしたらなおさら、悠長に、ロジオンの説得を待っている時間はないわけだ。キーラは魔道をふるいながら、ずい、とさらに前に進んだ。バオがキーラに攻撃を集中させる。 

 ありがとう、と、キーラはつぶやいた。おかげさまで、だれも守る必要がない。ずいぶん楽になった、と考えれば、ロジオンの声が響いた。 

「待ってくれ、キーラ」 
「聞けないわよ。状況、わかってるでしょ?」 

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