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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

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宝箱集配人は忙しい。

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 素直に言ってしまおう。秘書どのとの夕食は、楽しかった。

 偏った会話になるかと思いきや、そんなことはなく、僕はこれまで知らなかった王宮の事情までも知った。王宮には王族と賓客の料理を用意する第一料理人と、王宮勤めの騎士や文官たちの料理を用意する第二料理人がいるらしい。このレストランを開いた料理人は第一料理人だった。毎日、王族と賓客のための料理を用意していたけれど、もっとさまざまな料理を作りたいという理由で、王宮を辞し、このレストランを開いたそうだ。

 そんな料理人が作る料理は、気取ったところが少なく、食べやすい。

 舌ビラメのムニエルなんて絶品だった。

 塩と胡椒のバランスが素晴らしく、レモン果汁とパセリのソースは爽やかだ。うーん、名料理人ってどんな料理でも絶品に仕上げてしまうんだなあ、と感心したほど。

 最後にブラックベリーとりんごのパイを食べて、僕たちはレストランを出た。

 いい店だったな。僕は思った。秘書どのと一緒なんだ、もっとこう、仰々しく迎えられるかとも身構えていたんだけど、そんな特別扱いはなく、普通に丁寧な接客だった。

「ちょっと寄り道してもいいでしょうか」

 秘書どのがそういい出したとき、僕は油断していたと言えるだろう。

 先日、帰宅間際に起きた出来事をすっかり忘れて「うん、いいよー」と答えていたのだ。秘書どのが路地裏に入ってきたときも「あれ?」と考える程度だった。秘書どのが僕を庇う形で「出てこい」と告げたところで、貴公子が教えてくれた内容を思い出した。

 つまり、そのときになってようやく、僕を追跡する存在を思い出したのである。 

 とはいうものの、一人ではないのだ。

 さほどおそろしいとは感じず、「今日もいたのか」という気持ちで、僕は秘書どのの背後から、姿を見せた追跡者たちを見た。思わず笑ってしまう。

 彼らは、近衛騎士団の制服を着ていたのだ。

 この格好で僕を追跡していたのか、目立っただろうになあ、と、これまで彼らによる追跡にまったく気づかなかった自分自身に、僕は呆れて笑ってしまった。

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