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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

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宝箱集配人は忙しい。

目次

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 貴公子の案内によると、僕たちがいる場所はやはり、魔王が住んでいる城だった。先日、旅立った勇者の目的地でもある。僕たちが出会った王都から距離がかなりあるはずなんだけど、貴公子は魔王だから転移魔法で移動していたらしい。転移魔法って便利なものだなあと考えながら、僕は貴公子の後ろを歩きながら、何気ない調子で尋ねた。

「それで、あなたが我が国の王都にいらしていた理由はなんですか」

 今代の勇者を生み出した国だ。ならば偵察か、いっそ魔王自らが行う極秘作戦でも合ったのだろうか、と考えたのだ。そうだというならぜひ私見を振りかざして考えを変えようと思ったのだけれど、どこか恥ずかしそうな貴公子が答えるには。

「自炊にも、そろそろ飽きてしまってな」
(……はい?)

 思いがけない言葉を聞いた。そう思った。

 だが困惑して言葉を失っている僕の反応に構わず、貴公子は言い訳するように続ける。

「なにぶん、魔族は料理を覚えない。だから、わたしは魔王になってからずっと、自炊を続けてきたのだ。だが、いい加減、魔王としての在位期間も長くなってな……」
「結果、自炊に飽きた、と」
「うむ。思い切って転移魔法を利用してみたところ、そなたの国の王都に行けたわけだ。いろいろな店を訪ねてみたが、さすが地元民、そなたが薦めてくれた店がいちばんだな」
「……そうですか」

 そう答える以外に、僕に選択の余地はあっただろうか。

 僕のところに挨拶に来た、勇者までも思い出した。あの勇者がこの魔王の発言を聞いたらどう思うだろう。自分が倒さなければならないんだ、と意気込んでいた存在の、思いがけずに朴訥な発言に、勇者は心底、困惑してしまうのではないだろうか。

 そう呑気に構えていられたのは、貴公子の次の発言を聞くまでだった。

「だが、人と関わるのも困りものだ。宿屋の主人に頼まれて遠出をした先で、勇者と戦う羽目になってしまったのだから」
「……勇者と戦った、んですか」

 僕は複雑な気持ちでそう応じた。

 なるほど、だから魔王たる彼が、あんなにも深い傷を負ったわけだ。世界をいずれ滅ぼす魔王、その魔王に深い傷を負わせた勇者を頼もしいと称賛すべきなのかもしれない。

 けれど。

「複雑そうだな」

 完全なからかい口調で、貴公子が話しかけてくる。

 僕は息を吐いた。

「そりゃね。勇者の頑張りを知る僕は、同時に、あなたの友人でもある。この場合、どう思えばいいのか、心の底から困っているところですよ」

 僕がそういうと、貴公子は痛いような、切ないような表情を浮かべた。

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