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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

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宝箱集配人は忙しい。

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 ぽかりと目をあけたとき、僕は状況がわからなかった。

 あれ、僕は何をしていたんだっけか。今、横になってる場所はわかる。ギルドの保健室だ。でも仕事を終えて帰宅したはずの僕が、どうしてこんな場所に横たわってるんだ。

 指先が動くことを確認して、ゆっくりと起き上がる。

 窓の外を眺めれば、外は明るい。夜ではなくて朝、を通り越して昼なんだとわかった。

「目が覚めたか」

 ベッドまわりのコントラクトカーテンを開いて、保健室の医師が顔を見せた。

 医師はそのまま、僕の腕を取り、脈を測る。異常はなかったのだろう。ほっと息を吐いた医師は、わずかに眉を寄せて僕を見た。

「きみは街の入り口に倒れていたそうだよ。なんだってそんなところにいたんだい」
「街の入り口?」

 僕はパチクリと目を瞬いた。僕が思わず繰り返した言葉を聞いた医師は、驚いたように目を見開いた。逆に、僕はへにゃりと眉を下げてしまう。

「まさか、記憶がないのか」
「ええ。僕はそんなところにいたんですか。なぜです?」
「それを知りたいのは我々のほうだよ。きみは昨日、仕事に出勤しなかった。急に欠勤するなんて君らしくもない。さては急な病で動けなくなってるのかと考えた殿下が自宅に行けば、もぬけのから。異常を感じ取った殿下が探索させていたところ、街の入り口に倒れていたきみを発見したというわけだ。いま、殿下が事情を確認している」
「うわあ……」

 医師から受けた説明から、なかなかの大ごとになってる気配を感じ取った。

 おまけに、僕は秘書どのが抱いた懸念までも理解できてしまった。

 王女殿下が僕を捕縛させた後の出来事なんだ。秘書どのは僕が姿を消した事態に、妹姫が関与しているという疑いを抱いてしまったのではないだろうか。やばい。僕はシーツをめくって、ベッドから足を下ろした。急いで秘書どのの元に駆けつけようと考えたんだ。

 でも医師がそんな僕を押し留めた。

「待ちたまえ。気持ちはわかるが、記憶のない君が駆けつけてもどうしようもない。それよりも記憶がどこまで失われてるのか、確かめさせてくれないか」
「ですが」
「君の抱く危惧は理解できている、つもりだ。心配になる気持ちもわかる。だが、殿下を信じたまえ。根拠や証拠が揃ってない状況で、犯人を決めつけるようなことはなさらない。あのかたは、とても公平なかたなのだから」

 医師、というより、第三者が告げる、冷静な指摘に、僕もちょっと落ち着いた。

(そうだよな)

 僕はもっと秘書どのを信じるべきだ。彼の有能さや冷静さを僕は知っている。それに、冷徹に事実を見据えるなら。今回起きた事態の原因を追求したいなら、王女殿下が原因だという可能性も考慮すべきなんだ。

 なのにどうして僕は、この記憶喪失という事態に王女殿下は無関係だ、と断言してしまいたくなってるんだろう。 

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