MENU
「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

宝箱集配人は忙しい。

目次

45

 僕は首を振って、貴公子を見返した。

「申し訳ありませんが、これも職務なので。僕を発見した経緯をうかがっても?」

 貴公子は軽く苦笑を浮かべて、秘書どのを見た。

「そちらのものにも伝えたが、滞在している宿の女将の依頼でな。調理に必要な素材を集めた帰りに、偶然、街の入り口に倒れているそなたを発見したのだ。見たところ、外傷を負ったようでもない、ただ眠っているだけのようにも見えたが、そもそも、場所が場所だろう? そなたは自宅でもない場所で眠る趣味はないと知っていただけに、事件性を感じてな、冒険者ギルドに通報させてもらった、というわけだ。倒れているそなたに気付いた者は他にもいただろうが、わたしが動いたから手出しは控えたのかもしれない」
「なるほど」

 僕はそう言いながら、秘書どのを見上げた。ひとつ頷いた秘書どのは、「証言通りだと宿の女将から裏は取れています」と言ってきた。

 つまり貴公子は無実だと証明されてるわけだ。にもかかわらず、秘書どのがここまで貴公子を引き留めていた理由は、王女殿下との繋がりを疑っていたからだろう。さて、どうしたものか。貴公子と王女殿下は繋がっていない、と僕は断言できる。でもそれは、友人としての信頼なのか、当事者としての判断なのか、自分でもよくわからない。

 どうしたものか。考え込んで、くらりとめまいを感じた僕は頭を押さえた。

「室長っ?」

 秘書どのがあわてたように叫んで、駆け寄ってきた。思わず、と言った様子で、向かい側に座っていた貴公子が手を出し出す。「大丈夫」と、とっさに言った僕は、軽く頭を振って、貴公子を見つめ返した。静穏な美貌が、眉を寄せて僕を見つめている。

「申し訳ありませんが、今日のところはこれでお開きとしていいですか」
「構わない。話はいつでもできる。それよりそなたは大丈夫なのか」
「大丈夫、だと思っていたんですけどね。もう一度、診察を受けてきます」
「そうか」

 そう言った貴公子は立ち上がる。もの思わしげに僕を見つめ、秘書どのに視線を移した。視線を感じ取った秘書どのは、訝しげに貴公子を見つめ返す。

「部外者のわたしはこの場にいないほうがいいのだろう。先に伝えた宿に戻るゆえ、必要だと感じたら、いつでも召喚してくれ。素材を女将に届けてくれたこと、感謝する」
「……こちらが引き留めたのですから、そのくらいは当然です。それより、室長を思い遣ってくださり、ありがとうございます」
「友人だからな。それこそ当然だ」

 そう言って貴公子は立ち去った。めまいが治った僕はため息をついて、どさりとソファにもたれかかった。秘書どのは動いて、部下に医師を呼ぶように言いつけている。なんだかな、と、いつも通りではない自分の体調に苛立ちを覚えて、僕はもう一度息を吐いた。

 機密情報を漏らした症状は出ていない。記憶はないけれど、僕は大事な情報を漏らしてない、と、現在の体調から僕は判断できる。

 けれどあまりにも不可解なこの状況は、ドラゴンに相談すべき案件かもしれない。

 遅ればせながら、僕はそう考えついたのだ。

目次