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公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

上を向いて

こういうとき、あの子は絶対に人前に出たがらない。
確信している彼は、だれもついてこないようにと云い聞かせて、家を出た。森の奥に向かう道を歩いて、さて何年ぶりの探索だろう、と記憶を探る。

そう、もう四~五年になるのか。

幼いあの子はその育ちのためか、人に弱みをさらすことをいやがった。養い育てている彼にすら、不調を隠そうとする。どうやって隠すかと云えば、簡単だ、だれも来ない場所に隠れてしまうのだ。森の奥深くならだれも来ないと考えたらしい。初めに知った彼はあわてた。森には危ない獣がうろついている。彼は森の眷属だ。だがあの子はそうではない。だからあわてて森に訊ねて、あの子の居場所を見つけ出した。

いまも、森たちは笑いさざめいてひとつの方向を示している。

ありがとう、とささやきながら、開けた場所に彼は出た。
そこで見つけた、小さなあの子。
くるんと体を丸めて、膝を抱えてうずくまっている。
ああ、もう大きく育ったというのに。

微笑みながら彼は傍らに座り込み、小さな頭を抱え込んだ。んぐ、と乙女らしからぬ声が響く。腕の中で顔を上げてきた。

「お養父さま。わたしはもう、泣いてばかりの子供ではないのですけど」
「わたしにとってはいつまでたってもかわいい娘だよ、おまえはね」

満面の微笑みを浮かべれば、娘はちょっと頬を赤くして顔をそらした。
もう、その微笑みは卑怯です、と云っていたが、うつむいていたこの子が上を向いたのだから問題ない。

015:上を向いて▼
(ファンタジー エルフと人間の養い子)

お題を見た時、泣いている子供を迎えに行ったお父さんを思い浮かべました。ちいちゃくうずくまって泣いている子供をぐん、と抱き上げて強制的に空を見つめさせる人も考えましたが、包み込むように抱きしめて上を向かせるお父さんです。昔話でいう、太陽、だな。

2011/09/07

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