MENU
「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

薔薇色

薔薇色の頬、という表現が小説を読んでいると、しばしば登場する。

いかにも健康そうな、愛される女の子にふさわしい表現だと感じた。
そして思い出したのは、同じクラスにいるあの子だ。クラスの中心人物というわけじゃない。でも普通に清潔で、普通に気遣いのできる。普通にいい子。美少女というわけじゃなくて、きっとどこにでもいる女の子だ。

……でもきっと、わたしよりもずっと、あの人に好かれてるだろう、女の子。

昨日の放課後、たまたまなんだけど、二人が会話しているところを見かけた。
ただ、それだけだ。いかにも普通の距離を保って、普通に会話している二人に、わたしはなぜか、話しかけることができなかった。

バカだよね。

二人とも友達ではないにしろ、同じクラスメイトで。
だから話しかけてもおかしくない。むしろ話しかけずに追い越していくほうが不自然だ。

でも昨日のわたしは、そうしてしまった。きっと変な子だって思われてる。
だって二人の会話に入ることができなかったんだもの。

何を話していたのか、なんてわからない。二人の距離は、適当な会話をするのにちょうどいい距離。ただの雑談なんだろうってわかる。でも加わることができなかった。

怖かったから。

だって、邪魔だって思われるかもしれない。空気の読めないやつだって思われるかもしれない。
嫌だった、そんなの。

邪魔をしてしまえばいい? でも空気を読めずに、人の会話に割り込むような無神経な女だと思われたくなかった。でももっと不自然な態度で追い越してしまったから、今、とことん後悔している。変なやつだって思われたかな。それとも。

もう、わたしのおかしな態度なんて、忘れられてるかな。

今日は日曜日。明日は月曜日。
明日になれば、学校だ。わたしは通学する。
あの人と、あの、薔薇色の頬をした女の子がいるクラスに。

028:薔薇色▼
(現代もの 片想いを持て余している女の子)

ほとんどの場合、他人は自分のおかしな言動に気づいてなかったり、気にしてなかったりするものですけれど、相手が特別な対象だったら、長めの期間にもだもだします。そういう瞬間を描いてみました。相手は普通で自分も普通。でも時々、むしょうに相手の長所が目について、自分がよりダメダメに思えてきて、辛くなることってありますよね。

2019/08/29

目次