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公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

メトロポリス

(ふざけるな、クソじじいーーー!!)

心の中の絶叫は、口の中に封じ込めてやった。
さすが自分。ナイスな状況判断だと思う。

なぜ封じたのかと言えば、そりゃ独りぽっちなのに、街のど真ん中で絶叫するのはさすがに注目を集めると考えたから。 さすが自分、ナイスな状況判断だ。大事なことだから二回目。

日本の首都、東京。
世界的にも名の知られたメトロポリスは、とかく人が多い。

村の長老から聞いた昔話。それこそ江戸と呼ばれていた時代にも人は多かったそうだけど、今の時代の多さは桁が違う。表に出さないように気を付けているが、この人の多さに酔ってしまいそうなのだ。それなのに、滞在せねばならない。ああ、無情。

自分がこの都市に滞在する理由はただひとつ。
幼なじみの妖狐を探し出すことだ。

唐突に村を出た妖狐は何を考えていたのやら。ただ、長老の一人に妖狐が出奔した先を占ってもらって、たどり着いた場所がこの街、東京だった。世界の広さを思えば、驚くほどのピンポイントに示してくれたな、と思う。ありがたい。けれど、その場所がよりにもよって、こんなに人が多い場所だなんて。

(これじゃ簡単に探せるわけないじゃない!)

見つけるよりも以前の話だ。探し出せるだろうか、という問題だ。
主に体調とか体調とか体調とか。

すでに人の多さに酔いかけている。橋の欄干にもたれかかりそうになりながら、ふと、唐突に漂ってきた芳しい気配に瞠目した。 人が多い街、このメトロポリスにおいて際立っている、山奥にある清水のように清浄な香りだ。

身体を起こして視線を動かした。すると、地味な服装を着た一人の若者が目に入る。 黒い髪、黒い瞳に白い肌。ありふれた人間なのに、驚くほど清浄な気配が、彼から漂っている。

思わず惹きつけられるまま、フラフラっと彼について行っていた。

037:メトロポリス▼
(現代もの 人里に降りた妖怪)

メトロポリスとはなんぞや? と思って、調べました。ふむふむと頷いて、思いついたお話がこちら。現代的な単語だからこそ、伝統的な(?)単語と結びついたら面白いなあと考えたのです。人に憧れて人を追いかけて行った妖狐を連れ戻しにきた妖怪。人の気配によっているから、妖怪というより精霊かなあ。清浄な存在だからこそ、まれな存在に引きつけられて、彼が実は、という感じで想像しました。楽しかったです!

2019/11/27

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